最低な日

「舞子ー、今日も合コンだぜ、気合い入ってる?!」

 今日の相手は医者だ。医者はモテるし遊び慣れてる人が多いから、セックスにも期待できる。ああ、楽しみだなぁ。と、思っていたら。

「えー、あー」
「珍しくやる気なさそうだね。今日は私がイケメンゲットするね」
「いつも坂井がみんな持っていくだろ」

 舞子は何故か周りをキョロキョロして、そわそわと落ち着かない。んー?いつもなら合コンにテンション上がるのになぁ。

「今日はやめようかな……」

 ま、舞子が、合コンに来ない……?脳がフリーズする。ふ、普通に寂しい……

***

 その日の夜、結局舞子は本当に合コンに参加しなかった。何かあったのかなあと少し気になる。まさか自分が焚き付けた三上が本当に行動に移しているとも知らず。

「智代ちゃんだったよね?綺麗だね、俺智代ちゃんみたいな人タイプ」
「え、ほんと?ありがとう」

 スリスリと声をかけてきた男の腕に頬擦りをする。男は嬉しそうに私の肩に腕を回してきた。
 確か、自己紹介の時に外科医と言っていた気がする。外科医かー、これはかなり遊んでそうだな。私のボディータッチに全く怯まず更に身体に触ってくる。
 ま、どうせ、一夜限りなんだしどうでもいいや。むしろ遊び慣れてる男は歓迎。気持ちいいセックスは大好きだ。


「最高だった」

 そう言って隣で煙草を吸い始めた男の頭を後ろから引っ叩きたい。
 簡単に言うと、この男のセックスは最低だった。愛撫もろくにせず、自分にだけ奉仕を求め、濡れていないそこに無理やり突っ込み数回腰を振りすぐにイッた。
 自分は巧いと思ってる早漏野郎。最低だな。
 気分が悪くなって立ち上がった。その時に下半身に痛みが走る。傷入ったかな、これ。最悪。
 服を着始めた私を見て男はポカンとした顔をする。泊まっていかないのかとほざく男をハンっと鼻で笑って。

「自分本位なセックスしかできない男と過ごす時間ほど勿体無いものはないからね」

 そう言い捨てて部屋を出た。ああいう男は大抵ケチだから、大目にホテル代を渡すことも忘れず。
 ああ、最低なセックスのせいで不完全燃焼。高まった性欲がモヤモヤと身体の中で渦を巻いている気分。
 誰かいないかなぁとスマホの連絡先を見る。うーん、どの名前も気分が乗らない……

「うーわ、男の名前ばっか」

 耳元で聞こえた声に驚いて顔を上げる。バッと振り向けば、一番会いたくない男がいた。

「た、辰巳直也……!」
「名前覚えててもらえて光栄。智代ちゃんこんなとこで何してんの?」
「あんたに関係ないでしょ!」
「男漁り?俺が誘われてあげようか?」
「いや!」

 ああ、今日はもう最悪な日だ。こんな日は大人しく家に帰るしかないのか。コンビニで缶ビールでも買って一人で飲もう。その後でこの前ネットで買った新しいローターで……

「そんなつれないこと言わないでよ。不完全燃焼なんでしょ?」

 ぐいっと肩を抱かれて背中に辰巳直也の逞しい胸板が当たる。やべ、ちょっとムラムラっとしちゃった。

「いや、あんただけは無理」
「なんで?」

 振り向いて辰巳直也の顔を見る。文句の付けようのないイケメン。見上げて首が痛くなるほど高いところに顔があるのはちょっとマイナスポイントかもしれないけど。

「なんでって……」
「自分が優位に立てないから?」
「……っ」

 例えば自分がめちゃくちゃ好きになって、相手のことを全部受け入れて言うことを全部聞くとして。相手が同じだけ返してくれなかったら不安になる。人間は見返りを期待してしまう生き物だから、何もしてもらえないことに落胆する。そんな、不安定な気持ちになりたくないのだ。私は自分を保っていたい。恋愛でいっぱいいっぱいになりたくない。
 だから、自分ばかり夢中になる恋もセックスも、大嫌いだ。

「分かった、今日は俺何もしない。智代ちゃんの好きにしていいよ」
「はあ?何言ってんの?」

 辰巳直也は両手を挙げてにこやかに言った。

「俺の身体、好きに使っていいって言ってんの。智代ちゃん、ヤりたいんでしょ?」
「っ、それは……」
「絶対何もしない。ね?」

 ここで頷いてしまった時点で、既にもう優位に立てていないことに私は気付いていない。

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