あー疲れた、とぐるぐると肩を回す。とりあえず一週間ほどじゃ終わらなさそうな書類の数々は、俺じゃないと処理できないものだけは片付けてきた。あとはアリィに俺代理で片付けてもらおうと紙を残してきた。いや、面と向かって言うとあとが怖いから。

そんなわけで俺は導師イオンの私室を目の前にしていた。普通、許可のないものは立ち入りは出来ないんだけど、特別許可をもらっている俺は別だ。…最近、書類を持って来なくても守護役が俺の顔を見れば通してくれるのはどういうことなんだろうか。いや別にいいんだけどさ、楽で。


ノックもせずに部屋に入るが、部屋の脇に構えている守護役には特に何も言われなかった。そーいや、アニスが俺のファンクラブに守護役が全員入ってるどうのこうの言ってたけど…、まぁ冗談だろうな、うん。部屋に入ると、執務室の大きな机にぐったりとしているイオンの姿が見えて、苦笑いをした。

「随分お疲れだな、イオン」
「そ、そりゃ…数カ月分の書類ですよ…しかもこの後もフレイが忙しからって、貴方の分の書類まで、片付けた僕を褒めて欲しいです…」

アニスがいない分、部屋に守護役としているのはアリエッタだ。本来守護役でもないんだけど、誰も言わないのはいつものことで。ぐったりするイオンを見て、お疲れ様です、とアリエッタが呟いた。

「何?ってことは俺のやる書類は部屋に溜まっている以上にあったってことか!?」
「そりゃーもう、教団が運営出来なくなるほどに溜まっていたとか…」

あはは冗談じゃねーよ、と口走ったイオンは既に疲れているらしい。ま、普段でも俺とイオンと、あとトリトハイム他の詠師でやっとこ回してるところだもんな。髭と豚という2人のそこそこの地位の人間が仕事しないんだし。あの大詠師はまだバチカルにいるのかなー、いや絶対いるか。

「にいさまはやっぱりコーヒーにしますか?」
「ん?あー、そうだな。そうする」
「イオン様は?」
「ハーブティーでお願いします…」

ぐったり姿のイオンに少し笑いながら、定位置になっているソファーに腰を下ろす。すると、イオンも執務用の椅子から飛び降りるようにしてソファーに座りなおした。こっちの方が落ち着く、と零しながら。アリエッタがお茶を淹れているのを見ながら、そういえばとイオンの方へと漏らした。


「バチカルにいるモースはどうするんだ?」
「あぁ…もういっそのこと全てを被ってもらおうかと思いまして…。さすがにフレイもバチカルまで手回しはしてないでしょうし…」
「……いや、うん、あの、手回しはしてないんだけど…」

そう言えばシンクにしか言ってないっけ?と軽く首を傾げながら、アリエッタが俺の目の前にコーヒーと、それからイオンに紅茶を淹れ終わり、俺の隣に座ったのを見ながら。一応言っておくか、とイオンがカップに口を着けた時に告げたのがいけなかった。確実に俺のせい。


「バチカル上層部諸々と[戻って]きてるから」
「ブフーッ!!?」
「い、イオン様ぁ?!」

あ、ごめん、今言うのはまずかったよな、と苦笑いをして。紅茶を噴き出したイオンに慌ててアリエッタがハンカチを手渡す。何度か咳き込むイオンの背中を撫でるアリエッタもさすがに動揺しているみたいだったけど。そういえばシンクもかなり驚いてたよな。…かくいう俺も、まさか王城へ連行…まがいのことをされるとは思わなかったわけなんだけど。

「な、なんですかそれ…!何やってるんですかあの馬鹿!」
「引きこもりのくせに、余計なことするです」

アリエッタ何気に最近辛辣なんですけど。思わず苦笑いするものの、2人の言っている馬鹿に対して俺も同じことを思っていた。そもそも、どうして出てこないんだあのアホローレライ。あ、ローレライって言っちゃった。ようやく落ち着いたのか、改めて紅茶を口に含んだイオン。うんごめんだからそんなに睨むなって。今のは確実に俺のタイミングが悪かったんだから。

「ま、まぁこの場合やりやすくなったと言うべきなんですか、ねぇ…それ」
「だと思うけど?このまま開戦されるよりかはマシだ」
「……アリエッタたち、意味ない、です」


アリエッタの呟きに再びイオンが噴き出しそうになっていた。確かにアリエッタの言うことも一理あるよな、と思いながら苦笑いを零した。確かに、そもそもの話、俺やアスラン、そして六神将だけならともかく、まぁ百歩譲ってピオニー陛下もよしとしよう。けど、ジェイドたちまで戻ってきてる上にバチカル上層部も[戻って]きているのなら、俺らのやってることは意味はない、とまでは言わないけれど。

「キムラスカは無駄には動かないかな、とは思ってるからまぁよしとしよう。別に世界征服を目論んでるわけじゃねーし」

かた、と音が鳴ってカップをテーブルへと置いた。飲み干したコーヒーを置いて、アリエッタに美味しかったよー、とお礼を言うことも忘れない。ちょっと照れたように笑うアリエッタは至極俺の癒しだと断言します。だってイオンたち緑っ子は最近怖いんだもん。


さぁて、行くか、と立ち上がる。その動作を見て、イオンが首を傾げた。それはアリエッタも同じだった。…まぁ、当然のように書類は山のように残っているわけなんだけど、そこはもう気にしない。トリトハイムがなんとかしてくれるさ!もはや他人任せなんだけど。トリトハイムも胃、大丈夫かなー。


「あの、フレイ。何処へ行くのですか?」
「いやほらマルクトに。行くぞイオン」
「えぇ?!僕もですか!?」

親善大使一行がグランコクマに行く前に陛下に謁見したいし。そう呟けば、呆然としているようだけれど、唖然とするだけで何も言わなかった。とりあえず、と謁見までの日程を確認してうん、と一つ頷く。アスランに連絡してもらった方が早いには早いんだけど、いくらなんでも許可なしというわけにもいかないだろう(いや、まぁ特別許可証はもらってるわけなんだけど)

「準備しろ、アリエッタ」
「あ、はい、です!」

準備、と言われて何の準備か分からないアリエッタでもないはずだ。一応グランコクマには鳩を飛ばしておいた。まぁ1人で行ってもいいわけなんだけど、これからダアトを訪れる親善大使一行に導師がいることを考えると、イオンを残して行くのはあまり良くない気がするわけで。まぁヘマをしてリンが捕まるとも思ってないわけなんだけど。いなくなったフローリアンの行方も気になるところだけどな。


「…あれ?そういやアッシュは何処に行ったんだ?」
「えー、っと、知らないです」
「はぁあぁあ?!何処に行ったんだよ!」
「フローリアンと、それにアッシュまで、ですか…」

おいいいぃぃマジかよぉぉぉ!!何やってんだあの猪突猛進馬鹿がぁあぁ!

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