不変真理を嘲笑う


執務室の扉を開けて、その中に見えたものを視界に入れた瞬間に、再び扉を閉めた。ぱたん、と空しくなった音に、ふふふと若干の笑みを浮かべる。そういえばまだ特務師団はまだ戻ってきてないらしい。今頃はまだ海の上だろう。アリエッタの魔物を借りて帰ってきたから、俺らの方が早かったらしい、が。


「あの書類の山はないだろ…」

トリトハイムは教団関連の書類は処理してくれたみたいだけど、さすがに神託の盾騎士団の書類は俺か髭にしか処理できないものが多い。そして髭は最近、バチカルやら研究室やらに入り浸っている為、必然的に俺に書類が回ってくる。…こんなに留守にするんじゃなかったなぁ…。はは、もう現実逃避するしかねーよ。てかアクゼリュス大丈夫か?



「…何なさっているんですか、フレイ様」
「うぉう!?アリィ、お前いつ帰ってきたんだ…」

扉に額をくっつけ、ぶつぶつと現実逃避をしていたところ、背後から声が掛った。少し高い声に振り返ると、髪をお団子にしてまとめている女性が立っていた。特務師団の団員でアリィ・レヒフェルトだ。結構リンを私用で使ったり云々あったりのため、事実特務師団は彼女に任せきりなんだけど。そしてガイと同い年。


「つい先程戻りました。ご報告がありますので、中に入っていただけますか?」
「いやもう俺は見たくないものが視界に映ったから見なかったことにした」

我儘を仰らないでください、と一刀両断。俺を押しのけて、アリィが執務室の扉を開ける。それを渋々と追いかけながら、書類の山を見てため息をついたアリィを見る。ちくしょう、これいつまでに片づけなきゃいけないんだ?少なくとも、ルークたちがグランコクマに行く前にグランコクマに行きたいんだけど。

…これ、一週間で終わるかなぁ。

「わたくしどもが出発する前にからまた増えたようですね」
「まじでか」

のんびりと紅茶を淹れ始めたアリィを見ながら、どんだけ増えてんだよ。ていうかアリィたちが出るまでに既に溜まってたってことか。あ、これしばらくイオンも動けないだろうな、と思いながら諦めたように俺は執務室の椅子に座る。山積みのような書類が目に入る位置にあって、それだけで気が滅入る。ペンを片手に持ったまま、机に突っ伏す形をとった。やる気皆無。いつものことだけど。


「ところでフレイ様」
「んー?何?」

かたり、と俺の目の前に置かれた紅茶を見ながら、軽く返事を返す。やる気のなさげな返事にか、アリィがかなり不満気に眉を寄せていた。やる気がないのはしょうがないだろ、どうしようもないと思います。

「フローリアン様の姿が見えないのですが…」
「はぁ?一緒に戻ってきたんじゃねーの?」
「いえ、それが…。アリエッタ様はわたくし共と一緒に戻って来られたのですが、フローリアン様の姿がなく…。アリエッタ様に聞いても、知らないとおっしゃっているので」


あぁ、物凄く嫌な予感がするんですけれど。アリィのその言葉を聞きながら、眉を寄せた。何処に行ったかなんて全く見当もつかないんだけど、あとで一応アスランにも聞いておいた方がよさそうだなぁ。なんていうかこう、嫌な予感しかしないし?ていうかさっさと帰ってこいよ。まだ仕事あるんだからなぁ…。

「で、フローリアンは置いておいて。グランコクマに行かなきゃいけねーから、さっさと片付けるか…。半分くらい捨ててもいいと思う?」
「駄目です」

だーよなー、と口をとがらせて、呟いた。いつまでも唸ってたって始まらないわけだし、とりあえず片付けようと書類に手を伸ばす。それを見て、アリィが少し満足そうに笑ってた。だよな、いつも俺、書類片付けずに緑っ子の色々な始末とかしてるし。…まじで迷惑かけてますって感じ?

そういや、[アッシュ]って、真面目に書類整理とかしてたんだろうか…。てか、俺ほど地位は高くなかったから、俺ほどじゃないだろうけど。

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