水面に沈む落日


そろそろ日が沈みそうなそんな時間。目の前でにこやかにジョゼットとアスランが会話をしている。なんつーか、とっても違和感を感じる。何故かって?そりゃここがカイツール軍港だからだろう。

「…いや、おかしくね?カイツールは国境だし一般市民も少数だけどいるからって軍港に来たのは分かるけど。なんでアスラン普通に馴染んでんだ?おかしくね?」

にこやかにキムラスカ兵と会話をするマルクト兵なんて”前回”ですら見なかった光景だ。確かにこれがジェイドとかならもう少し違和感も強かったんだろうけど、なんていうかアスランだしなぁと思っちゃうあたりがダメなんだよなきっと。

「フレイと僕の二人でもよかったんだけどね」
「それでよかったじゃん。むしろそれがよかったっつーの」

軍港のベンチでどんよりと項垂れている俺の目の前で呆れたようにシンクがため息を吐いた。ちなみにレネスはイオンたちと連絡を取っているためここにはいない。アスランは何やらジョゼットと意気投合したらしく、楽しそうに稽古をしている。…いや、真剣でやらおうとしている時点でもはや稽古じゃねぇか。

「あんたね、僕の言うことなんか聞きやしないじゃないか。多少無茶しても僕なら止められないと思ってるんでしょ」
「んなことねーって」
「あるでしょ!!今までの行動振り返ってみろよ!」

大声を上げたシンクに「あーはいはい」とこぼしながら耳を塞ぐ。説教モードに入ったシンクはものすごくうるさい。つーか小言が多い。いや小言が多いのはいつものことか。すっかり緑っ子ツッコミ役になったシンクに成長を感じる。もはや心境は親気分だ。

「というかさ、とっても残念なニュースがあるんだけど」
「嫌だやめろ聞きたくない」
「……フローリアンが髭に捕まってたってことはさ」
「やめろそれは聞きたくぬぇええええ!」
「アイツも確実に髭に捕まってるよね。どーすんのさ、アレが地核に落ちたらアイツの居所わからなくなるよ」

だから聞きたくないって言ったんだ。俺が今まで必死に考えないようにしてきた事実をあっさり口にしたシンクを睨み付ける。睨み付けたところで俺が考えないようにしていたのは事実なんだけどな!だからそんな蔑むような目で見るな!

「あー、つーかアイツ別に超振動使えるわけじゃねーし、捕まってたところで、うーん」
「現実逃避しないでくれる?」
「まぁ俺を捕まえるまでは生かしとくだろ。ただでさえ髭の手持ちカード少ねぇのにこれ以上自分からカード減らすような真似しねぇだろ」
「…フレイ」
「そこまでバカじゃねぇと信じてる!」

はぁ、とあからさまなシンクのため息が聞こえてきた。いやいやため息を零したいのは俺の方ですよ。フローリアンといいアイツといいなんでこう簡単に髭に捕まるかなー…あ、まぁあいつらは二回目じゃねぇからさすがに髭よりは弱いか…。

「ていうか、降下作業したあとはどうするつもり?」
「んー…なんも考えてねぇな。とりあえず髭が戻ってくるまで数か月あるだろ」
「知らないよ。僕だって前は一緒に地核に落ちてんだから」
「あ、そうだっけ?」
「…ちょっと、大丈夫?」

イマイチ曖昧な記憶でしっかりとは思い出せない。うーん、シンクが預言者気取ってレプリカ情報抜き取ってたとかは思い出せるんだけど。その前が曖昧だ。首を傾げてみたものの、シンクからは怪しげな視線を送られてしまった。しょーがねーだろ、その部分は多分ルークが持ってんだよ記憶。多分。不便なことこの上ない。

「……あっ!そういやあれだ!おいアスラン!ちょっとお前顔貸せ!!」

突如思い出したかのようにベンチから立ち上がった俺はいまだに真剣でジョゼットと睨み合っているアスランの方へずかずかと歩き出す。その様子を見たシンクがあからさまなため息をこぼしていた。

「…誤魔化せてないんだけど」

うるせぇ俺は誤魔化したつもりなんかねぇよ!なんてシンクに内心で愚痴を零して、今にもジョゼットに斬りかかろうとしてるアスランの首根っこを掴んで引き摺りながら歩く。

「ちょ…、フレイ、危ないですよ」
「危ないのはお前だアスラン。なに普通にキムラスカ軍に馴染んでんだよおかしいだろ」

剣をぶんぶんと振りながら危ないことを伝えてくる。いや危ないって自覚あるんだったら剣しまってくんねぇかな。アスラン相手に言っても無駄だろうから言わないけど。


とりあえずアスランを引きずるようにして軍港の外まで連れてきた。最終的に「この態勢を見られるのはさすがにアレなので離してください」と言われて渋々手を離したけど。

「それで、どんな御用ですか?こんなところにまで連れ出して…」
「すっとぼけんなよマジで」
「はぁ」
「とぼけてんじゃぬぇー!!」

こんなところ、とはカイツール軍港の外、草むらの中でこっそりと密談だ。いやこんなことシンクたちに聞かれても困る。別にレネスに聞かれたところで別に前回を知らないからいい。それで言えばフローリアンやリンとか前回を知らない連中に聞かれるのは別に構わない。うん。

「ルークからどこまで聞いた?つーか何を聞いた!どれを聞いた!」

癇癪を起した子どもみたいな言い方なのは認めよう。実際心境的にはそんな感じだ。そんな俺を見て「ええっと」とアスランは首を傾げる。なんだここまで来てすっとぼけるつもりかこいつ。

「何を…と言われましても。ああ、もしかしてフレイが”ルーク様”じゃないことを仰ってます?」
「それ以外の何があんだよ…!」

がくり、と肩を落とした。なんだアスランのやつ知ってたのかよ…。つーかルークもわざわざ言わなくてもいいだろうに。なんて思っていた俺の耳に飛んでも発言が飛んできました。

「いえ、ルーク様から聞いたわけではなく」
「…まさかローレライだとかいうんじゃねぇだろうな…?」

なんだって俺にはあまり接触をしてこないローレライが周りに接触してるんだ。そもそもルークが時間を巻き戻したんだから俺に接触してこないのは当たり前か…。今は地核にいるしな。あの使えない第七音素。なんてローレライの悪口を言っていた俺の耳にトンデモ発言が飛び込んできた。

「いいえ、ウンディーネ様から。これもしかしたら他の音素の意識集合体と契約された方の耳に入る可能性がありますよ?」
「そっちかよ!それこそ最悪だ!」

そうか、ローレライと他の音素の意識集合体は関わりがあるんだ。そりゃそうだよな、ローレライが俺のこと頼んだくらいだから事情も説明してるだろう。そんな可能性がすっぽり抜け落ちていた。…俺が”ルーク”じゃないだなんて気付いたのは地核振動停止作戦のあとだからしょうがないか。

「今すぐここにウンディーネを召喚しろ!それは黙ってろ!」
「いや、さすがに第四音素の濃度が高い場所でないと…。ああ、でもフレイがいるからできますかね?」
「やるだけやってみろ。そんでぶん殴るあの女」

結局、嫌な気配を察したのかウンディーネは出てきませんでした。ちくしょう。

|
[戻る]