地核振動作戦を開始する、その連絡を港へした後に集会所を飛び出した。自分より前を歩いているアニスに続いて、イオンが集会所を出たところで集会所の前で待ち伏せていた人物に気付いた。

「リグレット教官!?」

イオンの背後からティアの驚いた声が聞こえてきた。驚きもなにも、襲撃されることは分かってただろうにと少しだけため息を吐きたくなったイオンだったが、その言葉はなんとか押し込めた。リグレットが数名の神託の盾兵を引きつれていて、その銃口はルークたちの集団に向けられている。

「地核静止をされては、我々も困るのだ」

棒読みになってますよ、と。つい口から洩れそうになった。

「やる気あんの?」
「さぁ…ないと思います。この状況では」

リンが呆れたように隣で呟く。その呟きに同意していると、そのやりとりに気付いたアニスが振り返った。他の面々はリグレットとのやりとりに気を取られているようで、リンとイオンが雑談している声は届いていないようだ。

「イオン様?」
「心配しなくても大丈夫ですよ、アニス。全ては彼の策ですから」

不安そうなアニスに向かって、にっこりと微笑む。その彼というのがフレイを差しているわけではないのだけれど。どこか楽しそうににこにこと笑っているイオンの表情と現状が一致しないことにアニスがうろたえていた。

「ルーク様!ナタリア殿下!」

そこに、唐突に第三者の声が飛んできた。上方から飛んできた斬撃に気付いたリグレットがその場から飛びのく。必要以上に距離を取ったのを見て、ああこれは完全にやる気がないなと悟った。

その場に割って入ったのは、キムラスカ軍の将軍ジョゼット・セシルだった。それに続くように街の南側の出入り口からキムラスカ兵が続々とシェリダンの街中に姿を現す。ジョゼットは真っ直ぐにリグレットを見据えると、その剣をいつでも振れるよう構えていた。

「セシル将軍!?何故貴方が…」
「事情は後ほど説明致します。この場は私にお任せください」

ルークの驚きの言葉に、淡々とジョゼットが返す。「説明する気ないくせに」とはリンの台詞だ。この件にフレイが絡んでいるとはルークたちのは零せない情報だからだ。ジョゼットがここに来たということは、港に来るはずのヴァンを倒しに行ったのだろうか。ルークたちと鉢合わせないようにする、と言っていたフレイの言葉を思い出してイオンは首を捻る。

そもそも、この場にリンがいる時点でその計画は意味をなさない気がした。何故ならリンのことだからフレイの姿が見えようものなら「あ、フレイだ」とでも言いそうだからだ。

「今のうちに行きましょう」

ジェイドの冷静な言葉に、ナタリアとルークも頷きジョゼットに礼を返す。そのままキムラスカ兵が道を確保してくれている街の南出入り口の方へと駆け出した。全員が駆け出したのを見て、アニス、イオンと続いて一番後方をリンが走り抜けた。

「あの方をよろしくお願い致します」

ぴたり、とリンの足が止まる。ジョゼットの隣をすり抜けようとした時に耳に入って来た言葉だ。振り返るとリグレットと真っ直ぐに向き合っているジョゼットの姿が目に入った。リグレットはもうやる気はないらしく、武器を下ろしてため息をついている。

「……あんた、僕を誰だと思ってるの」

あの時、キムラスカ王城でモースを断罪したことは耳に入っているだろうに。ジョゼットの言葉にニヤリと笑ってそう返すと、リンは遠くで自分を呼んでいるイオンたちの元へと走り出した。

完全にルークたちの姿が見えなくなったところでジョゼットは武器を下ろした。フレイからリグレットは敵ではないという情報を貰っていたからだが。

「…フレイ様と同じことを仰る」
「少なからずあの方に影響されたところは大きいからな、フレイは」

苦笑しながらジョゼットの言葉に返事を返したのはリグレットだった。返ってくるとは思わなかったその言葉に少しだけ驚いて目を丸くしてしまった。それにふっとリグレットは笑って再び武器を構える。

「ひとまず、街に入りこんだ魔物を始末するのが先だな」

その後で港にいるフレイと合流すればいい。そう思い武器を片手にリグレットの周囲に控えていた神託の盾兵が動き出す。リグレットが引きつれて来た神託の盾兵はリグレットが率いている第四師団の兵たちだ。


「…しかし、リンがルークたちと一緒にいるとはな…」

呟きは誰にも届くことなく消えた。リンが絡むと事態が厄介になる傾向がある。何事もなければいいが、と空を仰いだが。どうやらそれも無駄になりそうな気がした。


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