地核振動停止作戦、数時間前。


「やあ。元気そうだね」

集会所で最終確認を取ったルークたちは、作戦が始まれば身動きが取れなくなるということで物資の買い出しに出るために、集会所の扉を開いた。けれど、集会所の扉を開けた先に片手を上げてにこやかな笑みを浮かべ立っている人物を見た瞬間、周りが一気に殺気立つ。

「何故あなたがこのようなところにっ!」

ナタリアがそう指差しをして叫ぶ。「まさか作戦の邪魔をしに…?」と呟いたティアに、その人物は吐き捨てるように鼻で笑った。わざわざ口に出すことでもないだろうに、とでも言いたいのだろうけれど。

集会所の外で待ち伏せしていたかのように現れたその人に、一番動揺していたのはイオンだった。戸惑いながら自分の前に立っている人を掻きわけて先頭を歩くはずだったルークよりも一歩前に出る。そのことで一番イオンがその人物に近付く羽目になった。

「…リン…?何故あなたが一人でここに…?」

危ないです、導師!という声を振り切って、イオンは茫然と呟いた。アニスは側には控えているものの、リンがイオンに危害を加えることなどないことは分かっているから、その場から動かずにいた。リンはイオンの言葉に満足そうに微笑むと「そうだなぁ」と白々しい笑みを浮かべている。

「何故って言われると。…イオンが心配だったから、かな?」

にこにこと笑みを浮かべているリンの真意が読めなかった。そもそも、リンはフレイに頼まれてメジオラ高原に行っているのではなかったのか。そう考えたところで、ふとイオンは思い出した。あのリンがこの状況でフレイを放っておくだろうか、と。

この場にはヴァンも来るのだ。だとしたら、リンが面白がってここに来ることは十分にありえる。フレイの周りにキムラスカ兵がいるであろう現状では、リンはイオンのところに来ざるを得なかったのだ。他に選択肢がなかった。

「……一緒に来ますか?」
「イオン様!本気ですか!?彼は…」

ティアが驚いたように声を上げる。その声にイオンは苦笑しながらティアへと振り返った。そうしなければ、イオンの目の前にいるリンがぶちギレてしまうかもしれなかったから。一平卒であるティアが、最高指導者であるイオンに意見など出来るわけがないのに。

「彼は、僕の大切な人です。…大丈夫ですよ」

そうですよね?とにこやかに振り返る。すると、どこか居心地悪そうにリンが視線を逸らしていた。これは何かを企んでいたな、と察したイオンは苦笑しながらリンへと歩み寄った。イオンがそう言い切ったことでルークたちも特に反対する素振りは見せなかった。

リンと正面から向き直ると、イオンはにっこりと笑顔をリンに向ける。その笑顔を見て、リンは諦めたように一つため息を吐くと前髪をぐしゃぐしゃっと乱暴にかき回していた。

「…誰に似たんだか、本当に」
「嫌ですね。貴方に決まっているでしょう?」

にこにこと、笑顔のまま呆れるリンに言い淀むことなく言い放つ。リンに似たのは、紛れもない事実なのだから。


フレイの邪魔をするな、と。視線と言葉にそれだけを込めて。直接言葉にすることは叶わなかったけれど、リンはそれだけで察してくれたようだ。その証拠に居心地悪そうにしていたし、今も少しだけ機嫌が悪い。

リンに少しだけ勝った気がして、イオンは機嫌がよかった。

「さあ、それでは買い出しに出かけましょうか」


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