重い瞼と足をなんとか動かして意識を保ちながら(ただ眠いだけだ)、アニスに引きずられるように…とは言ってもさすがに教会の中までそんな格好だとちょっとばかり格好悪いので、きちんと自分で歩いてきたが。訪れたのはイオンの部屋だ。合図を数回すると、部屋から入室許可が下りたのでアニスが扉を開ける。

「うん?俺だけ?」
「はい。どうぞ。私は人払いしてきますね」

にっこり笑って俺を部屋に押し込めると、アニスがバタンと扉を閉めた。閉まった扉に困ったように苦笑して頭をかく。

「フレイ?どうしました?」
「ん?いやー、アニスもたくましくなったなぁと思って」

ソファーに座って一人お茶を飲んでいたイオンが不思議そうに声を掛けてきたので、振り返って先程と同じように苦笑する。俺の言葉の意味をどう取ったのか、イオンもまた苦笑していたけど。

「ほらフレイ、座ってください」
「はいはい。んでなんで俺のこと呼んだんだ?」

進められるまま、イオンの向かいにあるソファーに腰を下ろす。丁寧にお茶と茶菓子まで用意されているその様子に、まさかただの茶会をしたかっただけなんじゃ…なんて一瞬考えてしまった。うん、ほんの一瞬だけな。

「ああ、ええっとですね。もうそろそろシンクが戻ると思うので…そしたらお話します」
「シンクが?」

何でまたわざわざ。ロニール雪山のダアト式封咒を解いてからダアトに戻るまで、シンクは常に俺と一緒にいた。何か問題でも起こったんだろうかと少しだけ不安になるけど。考えたところで何の話か分からないから気にしたってしょうがないか。

考えることを一回放棄して、テーブルの上に並べられている茶菓子に手を伸ばす。多分アニスが作ったヤツだろうなぁと思いながら口の中に放り込んだ。…緑っ子といい、アリエッタやリグレットといい、六神将は割とまともに飯作れるやついねぇからなぁ。

「ところで、フローリアンって今何をしてるんですか?随分姿が見えないですけど…」
「あれ?アクゼリュス救援のあと、ダアトに戻って来いつったのに戻ってきてねーからルークたちのちょっかい出してると思ったんだけど…会ってねぇの?」

イオンの問いかけに、同じように俺も首を傾げて答えた。アクゼリュスの前から度々ルークたちに突っかかっていたフローリアンのことだ。死ななきゃいいだろ精神で、てっきりルークたちにちょっかいを出しにあちこち回ってるんだと思ったんだが。

俺の言葉にイオンは静かに首を横に振った。

「いいえ。一度も会っていません」
「………アイツに会った?」
「アイツ?…いえ、会っていません、ね」

口にしたアイツが一瞬誰だか考えていたのだろう。けれどすぐに思い当たる人物がいたようで、同じようにイオンは首を横に振った。その仕草を見て堪らず眉間に皺が寄る。…とっても嫌な予感がするんだが。

「…何もなきゃいいけど」
「………ヴァンに捕まっていたりして…」
「やめろ不穏なこと言うな。アイツらが大人しく捕まるとも思えねぇしなぁ…」

純粋無垢という言葉はどこへいったのやら。無邪気を装って(被験者イオンには負けるが)結構えげつないことをするフローリアンの笑みを思い浮かべて、ははは…と乾いた笑いだけを零した。まさかアクゼリュス付近でヴァンの仲間に捕まったとかとてもじゃないが考えたくない。

あー、でも一度してしまった嫌な予感っていうのはなかなか外れてくれないわけなんだが。


|
[戻る]