世界が変わるとき


「つっかれたああああああ!」

ロニール雪山のダアト式封咒を解除して、遺跡内の魔物を軽く退治したあとにアルビオールで訪れたのはダアトだ。

そして俺が叫びながらダイブしたのは自宅の自分のベッドだ。数カ月ぶりの我が家だぜ…。アクゼリュス崩落から暫くはダアトにいたけど、長い間空けていたから書類も溜まってて自宅に戻って来てる暇すらなかったから、本部で寝泊まりしてたわけで…そうなるともう本当に、かなり久しぶりだ。

「…やべぇ、やることあるのに寝ちまいそうだこれ…」

大きめのベッドが沈んでいく。留守の間に誰かが布団を干したり掃除をしてくれていたのだろう。ふかふかの布団が気持ちよくて、枕に頭を押し付ける。そのまま睡魔に流されるようにして寝てしまおうか。本当に切羽詰まれば誰かが起こしに来てくれるだろうし。ほんの少し、そんなことを考えながらうとうとと意識がまどろんでいたところだった。

「そんなことしてる暇ありませんよー」
「うおっ!?」

耳元から聞こえてきた声に慌てて飛び起きる。まさか部屋に誰かいるとは思わなかった。寝そうだったとはいえ、久々の自宅に警戒心がなさすぎたと反省する。

「ちょっとフレイ様、驚きすぎです」
「ああ…アニスか…。…ん?なんでお前がここにいるんだ?」

目の前には困ったように笑うアニスの姿。見知った人で安心したのもつかの間で、なんでルークたちと行動を共にしているアニスがここにいるのか少し疑問に思って首を傾げる。

確かあいつら、イニスタ湿原から徒歩でベルケンドへ向かって、そのあとはアルビオールでタタル渓谷、バチカルと移動してるはずだ。しかも飛行譜石がない状態で。どう考えても俺らの方が立ちまわり早い気がするんだけど?同じタイミングでダアトに来るとは思わなかった。

「それがですね〜…。ああなるの想定済みだったのか、二台目のアルビオールをベルケンドに待機させてたんですよ、大佐が。一台目は飛行譜石没収されちゃったので空飛べなくなって…」
「あー…なるほど、そういうことか…」

偽姫の騒動が起こらずに事が進むなんてことはないと踏んでいたんだろう。だからノエルがルークたちと別れて俺らの方へ来れたわけだ。シンクの手引きがあったんだとしたら、モースに没収された飛行譜石もすぐに戻ってくるだろうし。納得。

「それで、和平会談のためにイオン様が一度ダアトに戻られたいってことだったので。ルーク様はバチカル、大佐はグランコクマで今は私とイオン様しかダアトにいませんよ〜」
「迎えは?」
「えっと、私たちが最後です。明日の朝に迎えに来ると言っていました」

確かに流れが分かっていれば、手分けした方が早い。それぞれ国での準備や話し合いもあるだろうし、今日は各自泊まりでとなったんだろう。

「で、フレイ様が戻られてると聞きまして。イオン様がお話したいということでお迎えにあがりました〜」

びしっと敬礼しながらことの本題を切り出したアニス。そんなことじゃないだろうかとは思ったけど。ベッドに座ったまま「はぁ〜」と深いため息を零して頭を抱える。アルビオールでの休憩も随分慣れたけど、それでもやっぱり疲れは溜まっているもので。時計をちらりと見るとそろそろ日が暮れる時間だ。

「…明日、」
「ダメです。明日には迎えが来ちゃうので」
「………アニス〜」
「そんな声を出されてもダメです。行きますよ」

ぐいぐいとベッドから引きずりおろすように服を引っ張られる。ああ、俺の癒しのベッドが!強い力で引っ張られたけど、さすがにアニスに引っ張られた程度じゃベッドからは転げ落ちることはない。でもアニスの背後にいるイオンの顔がどうしてもちらついて、この呼び出しを無視することなんて…出来やしないんだよなぁ。

諦めて素直にベッドから立ち上がり、身支度を整え始めた俺を見て「最初からそうしてくださいよ〜」とアニスが零していたのが聞こえた。うるせぇ。俺だってたまには抵抗したいんだ!


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