胸に残った一抹の不安


目を開けたらそこには見慣れない天井がありました。

なんて、いつか思ったようなことを思いながら体を起こす。少しだけふらついたけど、あのウンディーネと話していた時ほどの気持ち悪さはない。少しだけ部屋が揺れているような気がする。辺りを見回してみても、全く覚えがない場所だ。ベッドとクローゼット、小さな机と椅子が二つあるだけの簡素な部屋で。

ベッドの横に備え付けられていた窓を見ると、外一面に空が広がっていた。あれ、なんで空なんだ?と不思議に思い首を傾げる。


「目を覚ましたか」

声が聞こえてそちらの方へと視線を向ける。ノックの音も聞こえなかったけれど、俺が眠っていると思ってしなかったんだろう。軽食をトレーに乗せて運んできたリグレットの姿が見えた。

「…どのくらい寝てた?」
「ほんの二、三時間だ。ケテルブルクまではまだ当分ある。全く…心配したぞ」
「倒れたのは俺のせいじゃねぇよ」

机にトレーを置くとベッドにいる俺の方へとリグレットが近付いてくる。なんだよ、こいつらに心配されるほど無茶はしていないつもりなんだけど。周りから見たら無茶しているように見えたんだろうか。シンクやアリエッタたちに言われるならともかく…、リグレットに言われるようじゃ相当だなと思うけど。俺としてはそこまで無茶している自覚はない。

「食べるか?バチカルを出てからまともに食べてないんだろう?」
「あー、食べる食べる。腹減った。……ちなみに聞くけど、これは誰が作ったんだ?」
「……私が作ったと言って欲しいか?」
「違うよな、よかった」
「怒るぞフレイ」
「冗談だって」

ケラケラと笑い返しながらベッドから起き上がる。ここ最近倒れてばっかりな気がする、そういえば。いずれにせよローレライだったりウンディーネだったり…音素意識集合体のせいだ。うん。俺が病弱とかそんなんじゃない。

リグレットは料理下手だから、見た目からして違う誰かが作ったものだろう。誰が作ったかまでは分からないけど、リグレットが作ると目も当てられないほどだ。あのナタリアですらびっくりだろう。いや、いい勝負くらいか。なんて失礼なことを考えながらリグレットの持ってきてくれた料理を前に椅子に座る。

「あ、アスランどこにいる?」
「上でシンクと話していたな。呼んでこようか?」
「そうしてくれると助かる。飯食ってるわ」
「ゆっくり食べなさい」

ぽんぽん、とすれ違いざま俺の頭を撫でるリグレット。茫然として撫でられた場所に手を当てリグレットを見ると、意地悪く微笑んで部屋を出て行った。…どいつもこいつも、人のこと子ども扱いしやがって。いや確かに実質七歳だけど。精神年齢的には[前回]の分もあるから年相応のはずだぞ、とパンを口に放り込みながら不貞腐れた顔をしていた。


もぐもぐと何日かぶりの食事をそろそろ食べ終わるかという頃。バタバタと何やら騒がしい音が聞こえて来て思わず顔を顰める。こんな慌てて部屋に駆け込んでくるような奴いたっけ、と考えるけど、下手したらアスランもシンクも走ってやってきそうだなと少しだけ思った。うん、少しだけだぞ。

けれどその足音は俺の予想していた人ではなくて。

「ルークさん!大丈夫ですか!?」
「……………ノエル!?」

息を切らして走って来たらしい、ノエルがそこにはいた。俺の驚いた顔を見てどうやらほっとしたらしく、よかったぁと呟くとその場に座り込んでしまっていた。

そこで一つ気付いたのが、窓から見えた外の景色っていうのがアルビオールからの景色だということ。…あれ、ちょっと待て。ノエルがここにいるってことは誰が操縦してるんだ?少しだけ不安になった。

「ルークさんが…あっと、今はフレイさんなんでしたっけ。フレイさんが倒れたって聞いて、心配で…」
「あ、えっと、俺なら大丈夫だからノエル。ていうか、これ、アルビオールだよな?ノエルがここにいるってことは誰が…」
「今は自動操縦なので安心してください」
「ああ、そういうことか…」

にっこりと微笑んだノエルに心底安心した。アスランは音機関とか詳しそうに見えないし、リグレットは恐らくハチャメチャな運転になるだろうし…、いや、うん。自動操縦で本当によかった。


最後のパンを飲み干すと水を勢い良く流し込む。今度からご飯くらいちゃんと食べよう。うん。ノエルはそんな俺を近くの椅子に座り、にこにこと眺めていた。なんかすげぇ嬉しそうだな。居た堪れないんだけど。

「…あ、のさ…なんでそんな嬉しそうなんだ?」
「ルークさんとまた旅が出来て嬉しいんです」
「…俺、ルークじゃないけど」
「あ、そうでした。フレイさんでしたね」

俺の言った言葉の意味を、名前が違うという意味で捉えたらしい。相変わらずにこにこと笑顔のノエルになんだか申し訳なくなる。つーか旅にノエルが同行していた記憶はあるが、ノエルと二人でどんな会話をしたのか、思い出らしき思い出が…なんだか思い出せない。

なんか、あんまり余計なこと突っ込まれると答えられないということに気付いて、話を変えることにした。

「なんでノエルがここに居るんだ?ルークたちと一緒なんじゃ?」
「ええ、確かにルーク様たちと一緒に旅をしていましたよ。けれど…えーっと…まぁその、色々ありまして」

何故か言葉を濁したノエルに首を傾げる。けれど詳しく説明する気はないようで、ノエルは少し慌てながら言葉を続けた。

「ルーク様の方には兄が行きましたから、問題ないですよ」
「そっか、じゃあ、またよろしくな、ノエル」

はい!と嬉しそうにノエルが笑う。なんでまたルークたちと別れてこっちに来たんだろうか。…いや、シンクが呼んだという可能性も否定しきれない。アルビオールがある方が断然に移動時間が短縮できるから。

…あれ、ていうか普通に今流してたけど、ノエルも<戻って>来てんのか。いつの間にだ、いつの間に。本当あのローレライの野郎…見境がない。こっちの身にもなれ。


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