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「お待たせー」
グランコクマの宮殿の前には一般市民にも開放されている広場がある。その広場の中央にある噴水のところにリグレットとシンクがいた。
「なんかリグレットと会うの久しぶりな気がするな」 「最初にダアトを出て以降、ほぼヴァンと一緒だったからな私は」
駆け寄ると嬉しそうにリグレットが微笑む。まぁあのヴァンと半月以上一緒にいたんだ…そりゃ精神的にも疲れるだろう。俺なら耐えきれずに後ろから襲いかかってるだろう。正面からでも別に襲いかかれるけど。
「ところで、あんたも一緒に来るの?」 「ええ。マルクト領内でしたら私がいた方が動きやすいだろうと」 「いやついて来たかっただけでしょ」 「バレてしまいましたか」
シンクが俺と一緒にここまで来たアスランをじっと見ていた。にこにこと裏の思いなどありそうにない人当たりのいい笑顔にシンクがそっとため息をついていたのが見えた。うん、まぁなんとなく言いたいことは分かる。けどこれでマルクト領内で動きやすくなったのは事実だ。キムラスカは…俺が黙らせばいいだけだしな、うん。
「んじゃ、とりあえずケテルブルクへ行くか。魔物使ってもいいんだけど疲れるしなぁ、船で行くか?」 「そうだな。ロニール雪山一帯の魔物は凶暴だ。それを考えると休養含め船で行った方がいいだろう」 「船の手配なら港行けばいいか?」
リグレットの言葉に頷いてアスランの方を見る。すると、何を考えていたのか少しアスランが考え込んでいた。やがて結論が出たのか、にっこり笑顔を浮かべている。
「いえ、軍部に行って手配してきましょう。そちらの方が早いですし」 「便利だね」 「だなぁ」
シンクの言葉に思わず同意する。民間の船となると時間もかかるだろうし、何より詳しい打ち合わせが出来ない。けれど軍が船を出してくれるというならそっちの方が早いだろうし、機密に近い話をしても大丈夫だろう。いやー、陛下がアスラン貸してくれてよかったと今思った。まじで。
それじゃあとりあえず軍部に、と歩き出す。さすがに神託の盾であるシンクやリグレットが軍部に行くのはまずいから(この場合俺は別だ。何故とか聞くな)、アイテム用品の買い出しに行ってもらう。ここ最近移動ばかりであまり戦うことが少なかったから、物資が全然ない。
「……待った」
歩き出したアスランの服を後ろから引っ張る。その言葉に別れようとしていたシンクやリグレットも足を止めた。急に服を引っ張られたことで僅かにつんのめったアスランは驚いて振り返る。
「どうしました?」 「……なんだ、これ、なんか…、嫌な感じが、……気持ち悪い」
アスランの服を握ったまま、思わずその場に座り込んだ。服を握っているのと逆の手で口元を覆う。座りこんでみたものの、吐き気がおさまる気配はない。そもそも、頭痛ならまだ分かる。けれどなんでこんなに吐き気がするほど気持ち悪いんだ?
「フレイ、足元!」
リグレットの叫ぶ声がして、口元を覆ったまま地面を見た。見たことない青い譜陣が展開されている。俺とアスランを中心にして。突然現れた譜陣に、第二超振動で、とも思ったけれどあまりの気持ち悪さに立てそうにない。
「これ…誰が…!?」
アスランがしゃがみこむと倒れそうな俺を支える。辺りを警戒してみるけれど、この譜陣を展開しているのが誰か皆目見当もつかない。騒ぎを聞きつけたのか、マルクト兵が軍部から出てくるのが見えた。
「…ローレライ、」 「え?」 「…なんの、つもり、だ…」
ぽつり、と呟いた名前で譜陣から発せられていた光が大きくなる。体を包みこんだのは第七音素ではなかった。ああ、だから気持ち悪いんだ。俺の体を構築しているのは第七音素のみだ。そこに過剰に他の音素が触れたら、そりゃ音素バランスが崩れるに決まってる。
ふらり、と頭が重くなるのを感じた。シンクとリグレットが遠くから名前を呼んでいた気がしたが、それに答える元気は既になかった。第四音素が、青い光が辺りを舞う。それが光ったと思ったら、俺とアスランの体を包みこんで収束した。
光が収まった頃には、二人の姿は跡形もなかった。
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