たった一つの願い事


感じた気配に顔を上げた。第四音素がいつも強く感じるこの場所で、それは不自然ではなかったけれど。少しだけ気になって、窓の外を眺めていた。今の感覚、なんだったんだろう。


「おい、フレイ。どうした?」
「え?…あぁ、すみません」

そういえば、グランコクマで陛下と話をしてる最中だった。


バチカルでモースを捕えたあと。陛下とアスランを交えて和平の話をした。陛下と話した結果、このまま俺がキムラスカ国王名代としてアスランと共にマルクト首都グランコクマに向かって、ピオニー陛下と話した方が早いと言われてしまった。

いや、だから、俺ってば今は神託の盾兵なんだってば。と言ったところで通用しなかったわけなんですが。


リンとアリエッタは今はここにはいない。イニスタ湿原の外までイオンを送ったアリエッタはリンを連れてタタル渓谷へ向かった。湿原を越えたルークたちが次に向かうセフィロトの場所がタタル渓谷だからだ。まぁあいつらがイニスタ湿原を越えて、ベルケンドへ行って、ケセドニアからのタタル渓谷と結構な道のりを歩くはずだから、俺とアスランは悠々とインゴベルト陛下が手配した船でグランコクマ入りしたというわけだ。



「非公式だしな、別にかまわないが。お前がぼうっとしているのが珍しいと思ってな。何か面白いもんでも見つけたか?」
「…いえ、」

陛下に言われて、そうだったか?と首を傾げて。そしてもう一度窓の外を見た。先程ほんの一瞬感じた感覚がなんだったのか、それが分からないまま感覚は消えてしまったんだけど。…それを言ったところで通じないし。

「で、どこまで話したっけ…。あぁ、そうだ。本当はケセドニアを下ろそうとは思ってるんですけど、セントビナーの降下でエンゲーブまで落ちちゃったんですよね。理論的にはエンゲーブは残せるはずだったんですけど、そうするとマルクト平野を支えるセフィロトが…」
「なくなってしまうから、下手をしたらこの大陸自体が早々に崩落する可能性がある、と」
「まぁ、そんなところ。暫くの問題は食糧問題なんだけど…」

はぁ、とため息を零す。こうなるのは想定済みだったのだから、もっと前に対策を練っておけばよかった。はっきり言う、そこまで手が回らなかっただけだ。考え込んでしまって黙りこんだ俺に、ピオニー陛下が笑った。かと思えば、いきなり俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で始める。

「そうお前が考え込むな!食糧問題はこっちで何とかする。お前はお前のことだけ考えろ」
「…………子ども扱いしないでもらえます?」
「俺から見たらフレイはまだまだ子どもだぞ?」
「はぁ…」

もういいです。と呆れまじりにそう零す。結局、[前]に抱いていたほど苦手感情はないけれど。やっぱりこの人が苦手だと改めて感じた。そんな俺とピオニー陛下のやりとりにアスランがくすくすと笑っている。くそ、やっぱりこの二人にはいつまで経っても勝てない気がする。

「で、お前らは次はどこに向かうんだっけ?」
「ロニール雪山なので…ケテルブルクです。別に俺一人でも行ってもいいんだけど…、うるせぇからなぁあいつら」

あいつら、というのは一緒にグランコクマに来ているメンバーである。いつも通りシンクが一緒なのはいいんだけど、何故かリグレットがいる。暫くヴァンについて監視してもらってたんだけど、ラルゴと交代したらしい。アリエッタから俺がグランコクマにいると聞くや否やすっ飛んできたらしい。なんかヴァンの愚痴がうるさいらしく、俺に文句言ってきた。知るか。

ちなみにだが俺はヴァンからの指令が一向に来ない。生まれてダアトに来てから早々に被験者イオンの元に行ってるから、ヴァンに同士と見られているかどうかは怪しい。だって俺には全く命令が来ないんだもん。それとも勝手にしてても戻ってくると思われてるのか。どちらにしても舐められてる。

「そりゃ心配もするだろ。フレイは一人で突っ走る癖があるからなぁ」
「…否定はしませんけど」
「アスラン、お前もう少し一緒に行ってやれ。マルクト領内を動きまわるならマルクト兵が一人いた方が楽だろう」
「承知致しました」

陛下の言葉に嬉しそうに頷いたアスランに思わず茫然としてしまう。待て待て、これ以上過保護は要らない。ただでさえ今回はリグレットもついてくるというのに。

「………いやいや勝手に決めんなよいらねぇよまじで」
「よろしくお願いしますね、フレイ」

ああ、これで無茶出来なくなった。陛下もこれが分かってアスランをつけたんだろうか…怨むぞ。恨みがましく陛下を睨んだところで本人はどこ吹く風だ。思わずうなだれた俺の肩をアスランが叩いた。

「というかフレイ、お前今回キムラスカ国王名代で来てるんだろう?いつから神託の盾兵から貴族に戻ったんだ?」
「戻ったつもりはありません。不可抗力です」


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