引き金を引いたのは誰だ


ルークたちとアリエッタをイニスタ湿原に置き去りにして、急いでバチカルまで戻ってきた俺はすぐに上層階に上がりファブレ邸へ向かう。道中でモースやキムラスカ兵に会うこともなく、どうやらナタリアたちがもうバチカルにはいないと踏んで引き上げたらしい。


…ちなみにこれは余談だが、「気まぐれ」だと言い放った俺に対して何が癪に障ったのかジェイドが術を遠慮なくぶっ放してきたことは言っておこう。だって真相を聞きに行ったのと、ベヒモスに食べられるかもと思った、だなんて言えるわけがない。要するに気まぐれだ。それで十分。うん。


「あ、フレイ様!おかえりなさいませ!」
「いやいや、ちょっと待とうか。なんでこんな普通に俺の存在が認知されてるわけ?」

ファブレ邸にすんなり入れたことは前科があるから大して気にはしなかった。白光騎士団に今回も「お疲れさまです」と敬礼をされて、普通にファブレ邸に通してもらえたことだし。

それにしたって、邸の中に入ってもメイドに頭を下げられるわ、普通にフレイと呼ばれるわ、…なんだか嫌な予感がひしひしとする。

「おかえりお坊ちゃん」
「やめろその言い方ぶん殴るぞリン」

応接室にいる、と言われて真っ直ぐにそこに向かうと応接室のソファーで寛いでいるリンとアスランの姿が目に入った。言っておくが、アスランに関しては仮にも敵国だここは。普通に寛いでいい場所ではない。

「聞きましたよ。まだ王籍が残っていると」
「……おかしくね?なんで敵将にそんな情報漏らしてんだよ」
「いいじゃないですか、私ですし」
「そういう問題か?!」

紅茶に口を付けながら優雅に飲む姿は様になっているけども。

「誰が言ってたんだ?」
「ファブレ公爵夫人がね」
「母上何してんだ…」
「言い逃れ出来ないようにじゃないの?」
「ヤメテくれ」

きょとんと首を傾げているリンの言葉を否定できずにいる。母上ならやりそうだ。何なら父上も色々なところで言いふらしていそうな気がする。

…というか、俺の王籍が残っているっていう言い方がそもそもおかしい。元を辿れば[今回]は生まれてからこの方、一度もバチカルのこのファブレ邸で住んでいたこともない。本当に一度だけこの屋敷を訪れた(というか引きずられてきた)ことがあるだけで。

要するに、俺がダアトで過ごしている間、知らぬうちに王籍が作られていたというわけだ。

「でもさ、城にいるアイツを黙らせるには十分な材料になると思わない?勝手に偽姫騒動起こしたり、開戦通知出したり。いい加減に黙らせないとだよね」

ニヤリ、と口角を持ち上げてリンが笑う。その笑い方が悪だくみを企んでいるときの笑みにそっくりで、非常に楽しそうだ。

「それは言えてるけどな。つーかその情報どっから貰って来たんだよ」
「そういうフレイはどこで聞いたのですか?」

アスランが首を傾げて不思議そうにしている。確かに今までイニスタ湿原にいた俺が開戦通知はともかく偽姫騒動の発端を知っているのはおかしい。肩を竦め、少し呆れながらその問いに答える。

「イオンが」
「…ああ、イニスタ湿原で会ったんですね。だからアリエッタが」
「そういうわけ」

出る時は一緒にいたアリエッタがいない理由を察したのだろう。アスランがほんの少しだけ困ったようn笑っていた。あのイオンに護衛がいるとは思えないけれど、という意味が含まれているんだろう。うるせぇな俺だってそんなこと分かってんだよ。

「と、いうわけで三人で乗り込むんだけど平気だよな?」

いざとなれば三人で切り抜けなければならない。レプリカ兵がいた場合とか、なんか色々あった場合とか。…その緊急事態を含めた上で、このメンバーは何かと強い気がするから心配ないだろうけど。

「勿論。あー、楽しみだな。どうやって転げ落ちてくれるんだか」
「"イオン様"、それは言ってはいけないことだと思いますが」
「ああ、…ふふ、ごめんごめん」
「やべー、全然イオンに見えない」


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