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「……何故六神将である貴方がたがここに?」
眼鏡をくいっと押し上げて、こちらの真意を探るような視線でジェイドが問いかけてくる。相変わらずルークの視線は射殺さんばかりの鋭さだ。ちらりとその後方にいるイオンに目を向けるも、にこにこと笑みを浮かべるだけでこの状況を面白がっているに違いない。そういうタチの悪いところは被験者とそっくりだよちくしょう。
「回復してやったのにその言い草はねぇだろ?」
肩を竦めて呆れたように言い放つ。それなりの治癒術を使ったつもりなんだけど、礼を言われる前に問い質されるとは。そんなことだろうとは思ったけど。
「そもそも攻撃してきたのはそっちでしょう!?」 「あー…」
俺じゃなくてアリエッタなんだけどな。と怒鳴って来たティアに苦笑したくなったけど、ぐっと押しとどめて我慢した。こんなところでやり合うつもりはないし、そもそもやりあうつもりは一切ない。
「一ついいか?なんでお前らがこんなところにいるんだ?」
きょとん、と首を傾げて至極不思議そうな表情を浮かべる。ああもちろん演技だけどな!理由なんて分かり切っているけど、本当にそうだと断言できるだけの材料がない。ジェイドやティアが怪訝そうな表情を浮かべ、話すのを躊躇っているのが見える。当然の反応だよなー、とため息を零しそうになったときだった。
「ナタリアが偽姫だとどこかの誰かが言ったお陰で、市民や兵が暴動を起こしかけていて、城に近付けなかったんだ」 「……は?」
思わず「は?」という冷たい声を零してしまった。驚いて目を丸くしながら、その言葉を発してきたルークを見る。真っ直ぐに、相変わらずこちらを射殺すくらいの鋭さだけに、何でそんな情報をこちらに渡して来たのか理解できない。
俺の疑問符のついた返事をどう思ったのかは分からないが、特に疑問にも思わなかったようで流されたが。
「城に近付けなかった…ですか?」 「…ええ。昇降機の前でモースが待ち伏せていて、そのまま追い返されてしまいました」
アリエッタの疑問に答えたのは今まで言葉を発しなかったイオンだ。ルークの態度はきついものだけど、口調はこちらを敵対視してる様子はない。何か思うことがあるのか、この場面で口を開くとは思わなかった。
「…モースが?」 「はい。この僕が、モースに追い返されました」
ニコニコととってもいい笑顔で「僕が」を強調したイオンに怖いものを感じる。いやこれ絶対根に持ってるだろ。思わずイオンの表情を見て顔を引きつらせてしまった。俺は悪くねぇ。
あー、しかしこれで納得した。キムラスカ上層部が今のルークたちを追い返すとは思えなかったし、マルクトに渡された開戦宣言も明らかにおかしい。で、バチカルにモースがいるとなると、誰の仕業かもうはっきりした。あの野郎余計な仕事増やしやがって。
「アリエッタ」 「はい、?」 「こいつら、湿原の向こうまで送ってやれ」 「………えー…なんでアリエッタが…」
俺の発言が余程気に食わなかったのだろう。ぼそり、と囁いたような文句は意外に大きな声で発せられた。アリエッタの不満ありありな返事を聞いたルークは顔を引きつらせていた。この中でアリエッタと付き合いが長そうなのはルーク(アッシュとも言う)だしなぁ。
「こんな湿原の中、イオンのこと放置出来るか」 「大丈夫ですよ?強いですし。ね、アニス」
イオンを指差しながらアリエッタに向き直ったが、とんでも発言が耳に飛び込んできて慌ててイオンの方に向き直る。にこにこと笑顔を浮かべたまま、アニスを見つめているがそのアニスは顔を逸らして困った顔を浮かべている。
「あ、あははは…そうですね…」 「そうですわね、アニスは強いですからアリエッタなどいなくともイオンは大丈夫ですわ!」
アニスの乾いた笑顔を見て、ナタリアがびしっと俺を指差して強い口調で言い放つ。挑発するのは別にかまわないんだけど、なんだか見当外れな気がする。その証拠に、イオンの発言の真意を汲み取っていたらしいジェイドが呆れ混じりにため息を零していた。
「はぁ。強いのはアニスではなくイオン様だと思いますが…」 「それに関しては同感だ」
呆れ顔のジェイドにルークが頷いているのが見える。にこにことイオンの発言のお陰で、少し険悪だった空気が和らいだ。
「はいはい、無理しないでくれよイオン」 「フレイに言われたくありません」 「うるせーよ。じゃあアリエッタ、頼んだぞ」 「えー」
唇を尖らせて文句をたれるイオンの真似なのか、アリエッタも俺の言葉に唇を尖らせてぶーぶーと文句を零していた。呆れ混じりに苦笑してから、アリエッタの頭を少し乱暴に撫でて通りすぎる。
そのままルークたちの横を通り過ぎてバチカル方面へ戻ろうと歩き出した俺を誰も止めなかった。戦う気配がないと分かったのか、それとも俺たちの真意が読めないのでどうしたらいいのか決めかねているのか。まぁおそらく両者だろうけど。
「まだ聞いていませんよ?貴方がここにいた理由を」
当然、ジェイドがそのまま俺のことを見逃してくれるはずもなくて。ジェイドの横を通り過ぎようとしたその一瞬に声を掛けられる。その言葉に足を止めて、ほんの少しだけ考える。さて、なんて答えるべきか。
立ち止まった足はそのまま、顔だけを僅かに動かしてジェイドと視線を合わせる。こちらを見透かすような視線で見つめてくるジェイドに向かって、にっこりと笑みを貼り付けた。
「ただの気まぐれだ」
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