気紛れパルティータ


宿からキムラスカ上層には向かわずに、真っ直ぐに街の出口に向かう。やーっぱり案の定、街では「ナタリアが偽姫、王家の血を継がない者」だなんて言われてるみたいで。まるっと[戻って]る上層部がそんなことをするとは思えないし、モースの独断かなぁ。これは結構めんどくさいぞ。


街の入り口はやっぱり封鎖されていた。けどそこはまぁ、神託の盾騎士団の特権だよな!つーか俺の存在が認知されてるせいなのか知らないが、ちらっと姿を見せただけであっさりと通れてしまった。それでいいのかキムラスカ。

そんなわけでアリエッタの魔物に掴まってイニスタ湿原に先回り。奴らは歩いて向かうはずだから、少なくとも奴らよりも前には着いたはず。奴らが一体いつキムラスカに着いて、追い回されて街から出たのかは分からないけど。

「さーて、どうしようかアリエッタ」
「え?何も考えてなかった、んですか?」
「おう。ノープラン。つーかあいつらに会いたくねぇんだよなー…」

確か、最後にあったのはイオンを(入れ換わったリンだったけど)バチカルから連れ出したあとのザオ遺跡だったはずだ。あそこじゃ戦ってたし、結構険悪な雰囲気だったはず。それから鉢合わせることもなくここまで来たから、なんだかもう会いたくない。すげぇめんどくさい予感しかしてない。

「あ、」
「どうした?」
「あっちからベヒモスの声、するです」
「おい、ちょ、マジか」

あっち、と指差した方向はイニスタ湿原の入り口に近い方だ。え?あんなところでベヒモスって出るんだっけ?首を傾げてみたものの、アリエッタの言うことだから間違いないだろう。やべーやべー、あいつらもう襲われてるじゃん。まぁなんつっても[二回目]だから負けるなんてことないだろうけど。

「しょーがねー…行くか」

ぽりぽりと頭を掻きながら、少し諦めたように呟く。「どんまいです、フレイ」だなんて励ましになってねぇぞアリエッタ。


諦めてトボトボ歩きながらイニスタ湿原の入り口の方へと向かう。ぬかるんでるせいか、とっても歩きにくい。途中出てくる魔物はもうめんどくさいのでアリエッタの通訳で退いてもらって、大した戦闘もなく入口へと近付いた。

「……派手にやってる、です」

アリエッタの呟き通りの惨状を見て、思わず足を止めた。派手に譜術をぶっ放している音が聞こえてくる。わー、さすが[二回目]だと拍手してやりたい。残念ながらこちらも[二回目]っつーこともあってベヒモスも強くなってる。そもそもアリエッタの傘下に入っていることで以前とは強さがケタ違いのはずだ。…というよりも、あの時はベヒモスが倒せるほどの実力がなかったから逃げ回ってた気がするけど。

「いや、あいつらなら大丈夫だ。多分きっと。つーわけで帰ろうぜ、アリエッタ」
「ダメ、です。ベヒモスが可哀想です。アリエッタ、行ってくる、です」
「アリエッタさーん?ちょっと待ってって!」

俺がやる気がないと分かるや否やアリエッタは武器を片手に走ってベヒモスの方へと行ってしまった。あー、これは困ったな。まぁアリエッタなら暴走することもなく上手くやることを…期待して。高みの見物でもしていようか。


アリエッタは走って行くとベヒモスの少し後ろ、影に隠れた。当然ベヒモスはアリエッタの存在に気付いているはず。それでもアリエッタのことを気にする様子はなくて目の前にいる自分に攻撃をしてくる連中に向かって吠えていた。

「始まりの時を再び刻め…、ビックバン!」

杖を掲げて何をするのかと思えば、一発目からまさかの秘奥義。見事にそれが命中したのは前線にいたルークとガイだ。二人が一番被害を被っていて、後方にいたジェイドやティア、ナタリアあたりはジェイドが譜術士の気配を感じ取ったおかげでティアが譜歌によりバリアを張っていたため、大したダメージはなかったようだ。

「な…っ!幼獣のアリエッタが、どうしてここに…?!」

かなりダメージを受けたガイが驚きながらベヒモスの影から現れたアリエッタを見て呟く。立っているのもやっとなガイの姿を見ていると、アリエッタの秘奥義の威力がどれほどのものか分かる。

「この子、アリエッタのおともだち…。イジメるのダメ、です」

ぬいぐるみをぎゅーっと握り可愛らしく呟くアリエッタ。ジェイドやティアのさらに後方にいたアニスが呆れて首を振っているのが少し遠くからでも見える。

いや、いくら友達を倒されそうになったからってベヒモスは殆どダメージを受けていないし、にも関わらず秘奥義はやりすぎだろ。


「ハートレスサークル」

途端に聞こえてきた治癒術に、いくらか傷が回復したガイとルークが驚いて目を丸くしている。アリエッタのさらに後方から治癒術を唱え終わった俺が呆れ顔で姿を現した。

「アリエッタ、いくらなんでも秘奥義はやりすぎだ。そこまでやる必要ねぇだろ」
「だって、この人たち、アリエッタのおともだちイジメるんだもん…」
「いや…状況見て言えよお前…」

しょんぼりとしたアリエッタを叱るのはとても心が痛いけど。どう考えても苛められたのはルークたちの方だろ。ベヒモスは少ししょんぼりしてるアリエッタを見て、心配そうに擦り寄ってくる。図体がでかいせいでアリエッタが押し潰されそうに見える。

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