そんなわけでキムラスカ王城に向かおうと宿を出たところなのですが。何故か街中がとても騒がしい。賑やかというか、騒がしい。まるでなんかの事件があったかのような騒ぎに、宿を出た瞬間にアスランと顔を見合わせて互いに首を傾げてしまった。

「何かあったんですかね?」
「それにしたって物々しすぎない?キムラスカ兵まで出て来てる」

リンが顔をしかめて指を差す。その方向にはどたばたと走り去るキムラスカ兵の姿があって、しかも武装している。明らかに何かありましたというその雰囲気に、なんだか頭の中に引っかかる出来事があるような…。

「どうするの?この状況。このまま城に行く?」
「…いや、ちょっと待て。なんか前にこの状況どっかで見たような…気がするような…しないような…」

リンの言葉を聞き流しながら、頭を抱えてうんうんと唸る。いやー、どっかで絶対経験してる気がするんだよな。武装してるキムラスカ兵に追い回された記憶があるような気がして…。

「……あああああ!」

思わず大きな声を上げて叫ぶ。その音に前を歩いていたアリエッタが驚いたように振り返る。当然、街行く人々も何事?みたいな感じで振り返るが、そんなこと気にしてる場合じゃない。わりとマジで。

「やっべ、すっかり忘れてた…。上層部まるっと[戻ってる]から大丈夫だと思ったんだけどそうはいかなかったか…」
「この状況に覚えがあるんですか?」

勘弁してくれー、と頭を抱え始めた俺を見てアスランが心配そうに顔を覗き込んできた。そんな顔されてもヤバいもんはヤバいんだよ!

「大有りだ。そんでキムラスカ兵が動いちゃうところを見ると結構ヤバい。ついでに街の気配から言ってかなりヤバい」

あー、どうすっかなー。そう呟いてみるものの、全く状況が分からないリンやアスラン、アリエッタはきょとん顔だ。しょうがねぇじゃん、こんなところで説明するわけにもいかないんだから。

何が起こってるかって、ナタリアの偽姫騒動だろう。こんなに早く奴らがキムラスカ入りしてるとは思わなかった。まだ開戦してなかったからそこらへんすっ飛ばしてキムラスカに戻って来たんだろうか。

「とりあえず、リンとアスランは城っつーか俺の屋敷行ってて…。俺の名前出せば入れてくれるはずだから。アリエッタは俺とイニスタ湿原な」
「何その意味不明な予定変更」

顔を顰めたリンが冷たく言い放つ。そんなにアリエッタと引き離されるのが嫌なのか。少しくらい我慢しろと言いたい。

「連中がアリエッタの大きなお友達に食われたら困るんだよ」
「おともだち?…えーっと、あそこにいるのはベヒモス、ですよ?」
「ああ、確かにそれでは食べられてしまいますね」
「怖いから!にっこりそんなこと言うなアスラン!」
「最初に食われるって言ったのはフレイでしょ」

それはものの例えだから!いや例えじゃないかもしれないけど…。少なくともにっこりといい笑顔で「食われる」って言うアスランよりはマシだと思います。

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