水に溶ける水泡の想い。


「……アスラン」
「おはようございます、フレイ」
「何処だ此処」
「バチカルの宿ですよ」

視界に映ったアスランにそう聞いて、返ってきた答えに少し首を捻った。シュレーの丘にいたはずだったんだけど、と思ったところで、思い出した。あのアホローレライのせいで気を失ったんだ、と。情けぬぇー。つーかローレライも今更過ぎる。とりあえず、節々が痛いのは気にしないで起き上る。アリエッタがいないのはダアトへの(正確にはシンクへの、か)定期連絡をしているからだろう。


「…俺、どれくらい眠ってた」
「丸五日というところでしょうか」
「ぬあぁあぁぁぁ!!マジでかローレライの野郎二度と地核から出してやんねーぞボケェェェェ!!」

計画丸潰れ!あいつらが追いついてくる!と半ば叫びながら半狂乱(笑)になっていると、視界の隅で笑いながら優雅に紅茶を飲むアスランの姿が目に入った。…なかなか黒いぞアスラン・フリングス将軍。俺のイメージではもっと穏やかな人だったんだけど。いや十分穏やかだけどさ。

と、いつまでも半狂乱にもなっていられないので、とりあえずベッドから降りて着替え始める。ご丁寧に畳んである団服を手にとって軽くため息だ。あー、うん。もう慣れたから気にしないけど、俺が黒着るってなー。最初シンクに笑われました。どうでもいいか。いそいそと着替えていると、がちゃっとノックも遠慮もなく扉が開いた。


「あれ?もう起きたんだ」
「おーいつ合流したんだリン」
「いつってシュレーの丘出た時からだよ。あぁ、その時にはもう既に倒れてたか」

アリエッタを伴ってリンが部屋に戻ってきた。…そうか、確かにその予定だったよなー。さらっとそう言ったリンに対し、アスランが「十分焦っておられましたよ」なんてリンに向けて言うもんだから、ちょっと面白かった。何ってリンの対応が。それで焦る様子も見せなかったけど、少しだけむっとした顔になっていた。

「ぐえっ!?」
「にいさまっ…!よ、よかった、です!アリエッタ、どうしていいのか、わかんなくて…!」
「…その前に、ちょっと腰への衝撃が…!」

アリエッタがいつの間にか腰に巻き付くようにタックル噛ましてきた。油断してたから衝撃がマジ半端ないんですけどさすがこれでも六神将…!今にも泣きそうなアリエッタはリンによって引きはがされた。ちなみにそのリンに睨まれてます。よくも可愛いアリエッタを泣かせてくれたよなあぁ?って感じか。うん、さすが導師。プレッシャー半端ない慣れたけど。


「…で、お前なんでリンの恰好なんだよ」
「樽豚がいるんでしょ?そろそろバラしてあげようかと思って」
「あーなるほどな。まぁそっちは任せる」

最後に外套を羽織って、ポケットに入っていた手紙を取り出して、開く。そこに書いてある内容は樽豚を黙らせるには十分だろうし、まぁ上層部まるっと[戻って]るんだったら全く文句も問題も出ないだろう。いや帰るつもりはさらさらないんだけどさ。


「よし行くぞマルクト皇帝名代!」
「いつカーティス大佐からその権限が移ったんですか」
「いいじゃんもうそういうことにしておこうよ楽だし和平交渉をまとめるのに」
「…あくどいですね」
「何ってるのフリングス少将。これくらいいつものことだから」

あくどい、と言われてリンがアスランに向かってにやりと笑った。にっこり、じゃなくてにやりの方だ。さすがのアスランも何も言わなかったけど。握っていた手紙をぐしゃっと握り潰す。アリエッタに悪い方の顔が出てる、と呟かれたが気にしない。

「キムラスカ上層部…目に物見せてくれる」

悪役みたいとか言うな!俺は現在アホ第七音素の意識集合体のせいで非常に最高潮に機嫌が悪いんだからな!


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