トリックスターの足跡


アニスたちがセントビナーへ着いた頃、既に救助は九割方終わっていた。そもそも、何故セントビナーへ寄ったのか、と聞かれれば、バチカルへ戻る途中だった、というのが一番正しい言い方だろう。セントビナーへの兵派遣については、どこかで聞いたのかピオニー陛下がいち早く兵を派遣したおかげで、ほぼ終わっている。

問題はキムラスカから出された宣戦布告だ。それを撤回させるために、ナタリアとルークが…まぁいうなれば親善大使一行がバチカルへと帰還するはず、だったのだが。何故か一行はシュレーの丘にいる。


「…バチカルに向かうんじゃなかったんですかねぇ」
「いいんじゃないですか?どうせフレイから此処へ行くように言われていたんですから」
「そうですけれど…」

一行の最後尾を歩きながら、アニスはそっと溜息をついた。なんだか連中の行動は矛盾している気がする。まぁ、別に命令を受けていたから、特に何も言わないで着いていくが。


今、此処にガイはいない。グランコクマで別れた。シュレーの丘から降下作業を行う、とグランコクマを出る前に決めたらしく、そのあとのことを考えてシェリダンへ向かい、アルビオールを借りてくることになっていた。勿論、ナタリアの印をもらって、だ。時間的に考えて、試験飛行の前だろうから墜落する前に借りてこれるだろう、というのがジェイドの見解だった。当然、それを[戻って]ないと思われているイオンとアニスは聞かされていない。

そもそもアニスはイオンが[戻って]きていることすら知らないわけなのだが。そこは、まぁいいとしよう。


「…おかしいですね」
「何がだ」

シュレーの丘、セフィロトへの入り口を見てジェイドが呟いた。それに、イオンが少し眉をひそめた。それを見たアニスが不思議そうに首を傾げるが、次の言葉に何が起こったのかすぐに理解できたらしい。

「セフィロトの入り口にはダアト式封咒が施されているのですよ。しかし、今はそれがない。ということはもしかすると…」

わざとしく、イオンがジェイドの言葉を継いだ。小さくため息をついたイオンは、そのダアト式封咒の跡を見つめた。いくらフレイがそれを壊せたとしても、再びそれを再構築するのは難しい。もしくは、イオンの負担を減らしたかったか。…どちらもありそうな話ではあるが。

「だとすれば、もしかすると六神将に先を越されたということでしょうか」
「なしきにもあらず、ですね。とにかく先へ進みましょう」

ナタリアの言葉に、僅かにジェイドが考える仕草を見せて、歩き出す。それに従って残りのメンバーも歩き始めた。未だそこに留まっているイオンの背中を押してから、アニスも歩き出す。

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