「…ん?」
「どうしたのさ」
「…いや、気のせい、か?」

港を目の前にして足の止まったアッシュに、シンクがため息をついた。それとは別に、またイオンが髭に攫われそうだったとかいう報告をアニスからもらって、ただでさえため息が最近多くなっているシンクなのだ。これ以上余計なことを増やして欲しくない、と。そういうため息だったのかもしれないが。

随分簡素になっている港に足を踏み入れる。背後にあるのは神託の盾の紋がついている戦艦だ。当然のように、タルタロスほどの大きさと威力はないものの、戦艦としては申し分ない見た目にはなっている。勿論、その性能も、だが。鬱蒼と茂っている森の木々にシンクは嫌そうに顔をひそめた。そして、港を降りた目の前にいる人物を見つけて、そっと溜息を吐いた。

「連絡くらい出来たでしょ」
「あぁ。残念ながら大詠師派に殆どの定期報告書を握りつぶされていたらしいな。あいつに送ったはずだが」
「知らないよ、そんな話。聞いてもない」

あいつ、が指すのを誰だか分かってはいた。そして、連絡が来ないと不安そうに言っていたことも知っていたので、大体の予測はついていた。連絡を怠るような人ではないことは、シンクもよく知っていた。その人は、アッシュを一瞥して、疲れたようにため息を吐いた。

「何処まで進んだ?」
「アクゼリュスは崩落、これからセントビナー周辺一帯ってとこかな」
「なるほど。予定より早い、か」

迎えにお前が来るとはな、とその人は笑ったのを見てシンクが眉をひそめた。他が忙しすぎてこちらに向かえなかっただけなのだ。事実、しばらく不在のフレイとイオンのせいでシンクがしばらく教団を回す羽目になりそうなのは目に見えていた。あらかた指示も出し終え、詠師たちが回してくれている状況ではあるが、このままではダアトが破綻する。

「こっちだって忙しいんだ。あんたに構ってる暇はないだけど…予想外の事態ってところかな」
「だろうな。そいつがいることだし」
「え、俺ですか」

アッシュがそいつ、と指を刺されて不満そうに眉を寄せた。それ以上、何も言うことはしなかったが。桟橋へと一歩踏み出したその人を見て、シンクが小さくため息をついた。これを見て、さらに色々と事態が混乱しなければいいけれど、と思っていた。事実、色々とかき回してくことが多いこの人、フレイの育て親なのだし。


「…さぁて、さっさとあの馬鹿にお仕置きしてやらないとね」
「ほどほどにしないといくらフレイでも泣くからねカンタビレ」

さすがにバチカル王城でエンシェントノヴァとかはやめてよね、というシンクの忠告にその人、レネス・カンタビレは軽く笑うだけだった。


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