さてさて、問題は此処なんだよな。俺が来る前に髭の野郎がプロテクタ掛けてるせいでうまいこと運べない。まぁ[前]みたいに無理矢理超振動で操作するしかないか、と制御盤を見てため息をついた。

「謡将の掛けたプロテクタ、ですか」
「あぁ。戦場ごと落とすつもりなんだろうけど、…あいつらに降下作業を任せてもいいんだけど、」

うーん、と悩んで首を傾げる。このまま、作動させたままだったら障気を受け取ることなく普通にルークが降下作業を出来る。今から此処で指示を出して降下させてもいいんだけど、バチカルへ向かわなきゃいけない俺らが降下に巻き込まれるのは、あまり得策じゃない。かといって、時間を置いて頼むにしてもセントビナーの住民の避難が終わっていない状況ではまずいだろうし。


それに、食料問題があるからエンゲーブも落とすのは得策じゃないだろう。百歩譲ってそこはカイツールまでだ。どうせあそこは軍しか駐屯していないはずだし、連絡が行ってるとも思えないけど…。そこは譲歩しよう。けど、アクゼリュスがない今、ルグニカ平野を支えているのは此処のシュレーの丘だけだ。エンゲーブを残すのは難しいかもしれない。

「丸二日、であいつらが此処に来るのが早いか、…それとも開戦が先か」
「どうでしょうね…。しかし上層部まるっと[戻って]きているのであれば、彼らの方が早いのではないですか?神託の盾がキムラスカ軍に扮して奇襲をかけてこなければ、ですが」
「…わー耳が痛い。これでも結構掌握してるつもりなんだけど」

半数くらい、と呟けば、怖いですね、とアスランの笑顔が帰ってきた。…うん、ジェイドとはまた違う意味で怖いんだけど。そこがアスランの凄いところなんだろうか。普段怒らない分、絶対にアスランの方が怖いと思うのは俺だけなんだろうか…。あとで陛下に聞いてみよう。


まぁとにかく、だ。開戦よりもあいつらがシュレーの丘へ来る方が早いだろうというのを予測して、とりあえず此処の降下作業はルークたちに任せることにした。魔物で魔界から帰ってくるのは骨が折れそうだし。ひとまずあいつらが他の操作を出来ないように、髭のプロテクタの上から解除コードを重ねる。まぁどのみち解除コード解けたとしても、髭の掛けたプロテクタがあるから殆ど意味ないんだろうけど。

「アリエッタ、悪いけどアニスに連絡してくれるか?“シュレーの丘は任せた”って」
「うん。手紙でいい?」
「あぁ」

少し待ってて、と何処に持っていたのか紙とペンでアニスへの手紙を書き始めたアリエッタ。随分と仲良くなったよな、とその様子にちょっとだけ笑って。いい傾向なのかな、と思いながら制御盤から一歩離れようと、したその瞬間だった。



高い音が耳の奥で鳴った。それはまるで、第七音素の共鳴であるかのような音だった。曰く、それは超振動のような。一瞬高い音が耳を掠め、足を止める。なんだったんだろう、と首を傾げた、次の瞬間だった。

「ッ――!?いま、さら…!!」

高い頭痛が頭に響いた。それは本当に七年越しの頭痛だったかのようで、物凄く痛い。それも尋常じゃないほどに。[アッシュ]から連絡が来た、という、その時の頭痛じゃなくて、これは、船の上でローレライに促されるまま、超振動を使おうとした時に似ているかもしれない。あの時のように、身体が動かなくなることはなかったが。

「フレイ?!どうしました!?」

膝をついた俺に驚いたようにアスランが駆け寄った。その声に、手紙を書いていたアリエッタも振り返る。当然、俺は2人の声は聞えているがそれに返している余裕なんてものはない。相変わらず鳴り響く頭痛に頭を押さえながら、眉間に寄せた皺をそのままにとりあえず、現況に文句を言う以外に何も頭に浮かばなかった。

「お、まえ…!何して、んだよ!」

明らかに、ローレライだ。ルークとの同調フォンスロットは開いていないはず。あれによって大爆発の兆しが見えるから、していないはずだ。ディストが勝手に開くとも思えないし、ジェイドがするにしても俺と接触したのは数回、そこにフォミクリーの姿はない。髭にしてもそんなことをする利点なんてないわけで。だからルークではなく、これはローレライだという確信があった。

しかし、酷く、ノイズが走る。


〈よう―く、繋がっ、た〉
「っ、何が、言い……いや、いい。何、してんだテメェ…」

頭が痛いせいか、自然と低くなった声に、アリエッタがぽつりと、アッシュみたい、と呟いていた。アリエッタの言ったアッシュは[アッシュ]の方なんだろうけど。そんなことを聞き取れるくらいには余裕があるらしい。

〈セフィロトでないと、我の声は届かない〉
「は?なに、言って…前、散々言ってきただろう、が」

確かに、そうだ。屋敷にいた時も船にいた時も、そのあとは…セフィロトじゃなくて、地核だったか、と小さくため息をついた。何をどうして今更の接触なんだ。それに、セフィロトでないとという意味が分からない。ミュウがローレライと話をした、というのを聞いていたし、出来ないこともないだろうに。

〈鍵を―…て、我、……う…〉
「…は?」

聞えたローレライの声に、一瞬眉を寄せた。それがどういう意味で言ったのかは分からない。もしかしたら此処が過去だから、という意味なのか、それともまた別の意味なのか。何かを言っているローレライの言葉に混じって、酷く、ノイズが聞えた。そして、高い第七音素の重なる音と同時に、頭の割れそうなくらい酷い頭痛が頭に響く。


「フレイ!」
「にいさまっ!!」

慌てるアスランの声と、泣きそうなアリエッタの声を耳に入れて、最後。倒れた感覚と、そしてそれとほぼ同時に俺の意識はブラックアウトした。

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