世界の息づくその場所で


シュレーの丘を目前にして、俺は笑い始めた。あー、これはもう駄目ですね終わりましたねなんてアリエッタとアスランが呑気に会話をする。俺が見たのは、アニスから届いた緊急の報告書。髭のやつ…覚えておけ、地獄を見せてやる。

「イオンがグランコクマとかマジふざけてんだろ冗談じゃぬぇえぇええぇ!!」

アニスが言うには、ダアトにいるシンクに連絡し、セントビナーが降下し始める前までにはきちんとリンをイオンの恰好にして送り届ける、という内容の手紙だった。それを丸めて、背後へと投げ渡す。当然のようにそれをアスランが譜術で綺麗さっぱり灰へと消した。残念ながら、アスランは第五音譜術はあまり得意じゃないみたいだけど。


「まぁいいや。とりあえず終わらそう。あと…何日だ?」
「丸二日、ですか」
「リンも十分間に合うな」

アスランがさらりと答えたのを見て、ダアト式封咒の奥へと歩き出す。どうやって解呪したって、それは勿論第二超振動で、だ。なんでもありの至れり尽くせり第二超振動。なんていうか楽すぎるローレライの鍵。なんでもありだなおい。


ぱ、とセフィロト内部に入ると、足を止めた。初めてそこへ入ったであろうアスランとアリエッタは少しだけ足を止めた。勿論、その2人とは違う意味で俺は足を止めたんだけど。そこで、ふと俺の様子に気付いたのか、アスランが俺の方へと近付いた。その距離、ほんの数歩だ。

「どうかなさいましたか、フレイ」
「…いや、此処、めんどくさいんだよな」

仕掛けが、と言うまでもなく気付いたらしい。アリエッタは下から噴き出て見える記憶粒子に目を奪われているのが見える。とりあえず先へ進もう、と歩き始め、未だ止まっているアリエッタへと振り返る。

「行くぞ、アリエッタ」
「あ、にいさま、待って!」

小走りで俺の方へと走ってくるアリエッタを見ながら、可愛いなぁ、とふと思った。アスランもなんだか癒されているような気がする。追いかけてくるアリエッタを少し待ちながら、この先へどうやって進もうかと考えていた。


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仕掛けはどうしたか、と言われたら全く解いていない。封咒は第二超振動でかっ消した。よい子はマネしないでね☆なんて誰かに向かって言いながら、最後、パッセージリングの前へと俺たちは姿を現した。障気が入り込んでない分、まだ此処はマシだな、と納得して。

「凄い、です!にいさま、綺麗!」

パッセージリングを見て、アリエッタが少し楽しそうに声を上げた。それに呼応するように、寄り添っているライガも少し咆哮を鳴らした。そんなアリエッタの様子に苦笑いしながら、パッセージリングへと向き直る。[前]にはジェイドが立っていただろう俺の隣に、アスランが一歩踏み出て並んだ。

「これがパッセージリングですか。人工物とは思えない大きさですね」
「それを言ったら外郭大地もなんだけどな」
「人の考えることが一番怖いですよね」

アリエッタを見ながら、アスランが言ったことに少なからず納得した。パッセージリングや外郭大地などの創世暦時代のものもそうだが、一方で現代になってから、一つの原因ともなったレプリカ…所謂フォミクリー技術だとか、預言に頼りすぎる一方とか。諸々と。

「しょうがねぇよな、まぁ。普通さ、」

そう言ってパッセージリングの操作盤へと近付いた。前回と同じようにローレライの鍵を片手に持った。そして、制御盤に記された解除コード、という文字にアスランが眉間に皺を寄せた。当然の態度だよな、と苦笑いをしてアスランの方を見ずに制御盤へ手を伸ばす。

「解除コード、ですか…。謡将の仕業で?」
「いや、俺の仕業。これ、下手に動かそうとすると障気を取り込むんだよ」
「なるほど。…それ以外に、彼らに勝手に動かされない為でもあるのでしょう?」
「ま、五分五分って感じ」

やっぱり鋭いよなー、と解除コードを打っていると少し後ろからアスランが噴き出す音が聞こえてきた。それに思わず振り返ると、アスランが何故か笑いをこらえているのが見える。それに気付いたのか、アリエッタがこちらへと駆け寄ってきた。

「…それにしても、〈世界を覆すほどの劇薬〉が、それというのはどうなんでしょうね」
「いい案だろ?絶対に誰も気付かない」
「何の話、ですか?」
「んー、制御盤を動かすためのパスワードの話」

笑った、アスランと困惑するアリエッタへ答える。絶対に俺にしか分からないはずのパスワードだ。もしかしたら、アリエッタは気付くかもしれないな、とくすくす笑いながら。それでも意図に気付かなかったのか、アリエッタは不思議そうに[前]を知っているものならば口にしておかしくない言葉を続けた。

「レプリカ、ですか?」
「違う違う!…ま、気付かなくても別に問題ないから」

俺の個人的見解だし?そう言って笑って、ローレライの鍵を片手に制御盤を動かした。障気が入り込んでこないのを確認して、少し安堵する。ちゃんと作動していることを確認して、ローレライの鍵を再び左手に同化させた。


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