街の前で待っていたのはジェイドだった。疲れた様子のイオンを見て驚きを示したが、すぐに一室を用意する、と言われたその申し出を断ったのはアニスだ。宿屋を一つ、部屋を借りてそこへイオンを引き連れて行った。残ろうか、と言ったガイの申し出は丁重にお断りをして。

「どうしてイオン様が此処に?ダアトにいるはずじゃ…」
「えーっと、少し前にフレイと一緒にグランコクマへ来たんですけれどね」

アニスが文書を書き落としているのを見ながら、イオンは忌々しそうに呟いた。当然、アニスが書いているものはシンクやフレイ宛てで大詠師宛てではない。それをイオンも理解しているのか特に何も言わずにいた。

「あの髭、アリエッタの魔物にまで暗示掛けて僕を連れて行こうとしたんですよ。全く、舐めてもらっては困るんですけどね」
「それでダアト式譜術使いすぎて倒れそうになったのは何処のどなたですか。これ以上無理なさらないで下さいよイオン様」

なるほど、と納得をしながら文書の続きを書きあげる。イオンを連れて行こうとしたのは、所謂総長派と称される神託の盾騎士団の一派だったらしい。今は最早その勢力は殆どを参謀派に流れ込んでしまっている。どういう経緯で総長派を増やしたのかは定かではないが。


「フレイ様はお傍におられなかったのですか?先までグランコクマにいたのですよね」

聞けば、アリエッタも一緒にいたらしい。フレイとアリエッタが一緒にいて、イオンが攫われるなんてことはあり得ないというはずなのに。それを尋ねられ、イオンは疲れたようにため息を零した。それにどんな意味があるのかは分からないが。

「…いましたよ。まぁ上空から連れて行かれればどうしようもないでしょうね。いくらなんでも僕が殺されることはないと思ったんでしょう。セフィロトの方が先決ですし。アリエッタの魔物が跡を追ってきてくれたので、多分僕の行方は知っていると思います」
「しかし、イオン様がおられないとセフィロト内に入られないのではありませんでしたか?」
「えぇ、そうですね。最も幾つかの策はあるようですが…。アニス、一応ダアトへの連絡もしてもらって構いませんか?」

分かりました、とイオンに今言われたことも文書に書き起こしていく。フレイやヴァンのいない穴を埋めるため、しばらくはシンクがダアトにいるはずだ。とりあえずシンクへの連絡をしておけば、何らかの対策をとってくれるだろう。しかし、いくらアリエッタの魔物便があるとはいってもグランコクマからダアトまでの連絡には幾らかの日にちはかかるが、それ以上はどうしようもないだろう。


「…此処から一番近いセフィロトですと、シュレーの丘ですか。ダアトに連絡が行くのとフレイ様たちがセフィロトへ到着するのと、ほぼ同じくらいですね…」
「後々にバチカルへ向かうそうですから、それまでにリンが間に合えば」

あ、やっぱりリンがイオンとしてフレイに合流するんだ、と分かりため息をついた。どうしてフローリアンでもシンクでもないのか、それをアニスはまだ知らないわけだが。よし、とアニスは最後の一文を書き終わり、そこに導師の印を押す。これでいいな、と納得した後に思い出したようにイオンへと振り返る。

「イオン様、ピオニー陛下への謁見はどうなさいますか?」
「結構ですよ。ついこの間謁見しましたから」

そういえば、一緒にいたんだっけ、と納得して、窓から魔物便を空へと向かって飛ばした。


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