私室じゃなくて謁見の間にしてください、と言ったのは私室じゃ俺が落ち着かないから。足元をブウサギにうろうろされながら真面目な話なんてできっこない。ていうか無理。ただでさえ集中力がないのに。…そもそもあれが陛下の私室ってことがおかしいと思うんだけどさ。

「あ、お前ら。非公式だから顔を上げて発言していいぞー」
「…いや陛下さぁ。頭下げる前にそれ言うのやめてくれって」

マジで、とそう言ったにも関わらず、特に取り押さえられないのはこれが非公式だからか、それとも俺だからかなのかは分からないけれど。アリエッタが跪こうとしていたばかりだから、戸惑ってしまっている。イオンに言われて、渋々というか辺りの顔色を伺いながら恐る恐る立ち上がった。


「アクゼリュスの民は確かに受け取ったぞ」
「それは俺じゃなくてアスランとアリエッタに言ってください。まぁ無事でよかったですよ」
「そういうな、素直に喜べ」
「……うーわーだから俺、陛下苦手なんだって」

そう簡単に[前]を出されてはこっちの身が持たない。まぁ単純に嬉しいんだけど、今はまだそれだけでは終わらせられない。問題はこっちから先、何が起こるのか分からないから余計に用心は必要なわけなんだけど。あからさまに眉を寄せてそう言えば、陛下は軽く笑っていた。笑うところじゃないんだって、本当に。まぁ面と向かって、苦手だと公言出来るほどには構わなくなってきたんだけど。


「それで、導師が何故グランコクマに?ジェイドたちと一緒じゃないのか」
「そっちはリンですよ」
「なるほどな、入れ替わったというわけか」

それでアリエッタも一緒だと納得したらしい。まぁシンクからの魔物便で聞いた限りではリンはダアトに戻ってきてるというらしいが。ルークたちをキムラスカへ返しておく、とは言ってたけど多分無理だろうなっていうのは分かっていた。その前に手回しすればなんとかなるだろう。

それで、と俺が笑顔で陛下へと向ける。その視線は、陛下の傍に控えているアスランも気付いたらしく、珍しく顔が引きつっている。それは勿論陛下も同じだったようで。その笑顔に思い当るところがあるイオンとアリエッタはなんとも言えない顔になっている。俺が言いたいことに気付いたのか、目に見えて陛下が慌て始めた。

「どうしてキムラスカからの宣戦布告が出されているんでしょうか」
「いや、それは俺に聞くな!」
「キムラスカ上層部はまるっと[戻って]ることが確認済みなんですけれどね」


その言葉にいつの間にか[戻って]きているというゼーゼマン参謀やノルドハイムなどの顔見知った方々が狼狽していた。アスランにも言ってなかったことを思い出して、同じようにうろたえているアスランが目に入る。それは陛下も同じようで、引き攣った口元がよく見えた。

「多分、あのハム大詠師のせいだと思う、です」
「なしきにもあらずってところか」

アリエッタの言葉に、当然そうだろうな、と呟く。イオンはくすくすと笑いながらいい加減あのハムをザレッホ火山へと突き落としてやりましょうか、うんぬんかんぬんなどほぼ拷問まがいのことを言い始めている。おい、平和の象徴がそれでいいのか。


「それで、ルグニカ平野の軍備は」
「…いやいやフレイ、お前それを聞くのか?ダアトの軍人だろ?」
「立派な内政干渉ですねー。今に始まったことではないじゃないですか何を今更」

開き直ってるー!?と宮殿の謁見の間の心が一つになった。イオンもアリエッタもさすがに顔を引きつらせているのが分かる。ハム大詠師もキムラスカへの内政干渉だけど、俺の場合もっと酷いよなーとけらけらわざと言うようにして笑う。まぁ別にマルクトを乗っ取ろうなんて思ってないんだけど。そう言っても周りにはそう見えるらしい。ダアトは安泰ですねーと笑ってるアスランは逆に他人事でいいのか、と思ってしまうが。

「一応緊張はしているカイツールの方へは軍部隊の派遣をしているが」
「…誰もカイツールの心配なんてしてないですよ。俺が聞きたいのはセントビナーですよ、セントビナー。知らない忘れたとは言わせませんよ陛下」

あからさまにイラ☆として発言したことが分かったのか、陛下があわあわと慌てたように視線を彷徨わせていた。当然の如く、[戻って]きている陛下とあらばセントビナー周辺が魔界へ降下することは知っていたはずだ。だとしたら俺が来る前に兵を派遣することだって出来るわけだが、

「い、いや…情報もないのに軍を派遣するのは、さすがに議会が…」
「何のための議会改正法なんですかあほ陛下」
「あれ?非公式非公式。俺の幻聴だよな、今の不敬発言は」
「耳が遠くなったんじゃないですか。まぁいいや」


今言いました、絶対今言いましたから三日以内にセントビナーへ兵を派遣してください。俺はさっさと親善大使一行がこちらへ来る前にシュレーの丘からセントビナー一帯を五日以内に降下させるんでその前に住民の避難をしてください。タルタロス級だってあと数隻あるはずですもんね、何のための議会改正法なんですか陛下☆


とほぼノンブレスで言えば、謁見の間にいる全ての人から同情を誘ったらしい。最早涙目で俺を見ている陛下。やっぱり[戻って]きてくれて助かったなー、と改めて思う。もしもそうでなければ、全て神託の盾兵でしなければいけなかったんだから。

「あ、それでシュレーの丘が終わり次第キムラスカに行って上層部を滅多刺しに…じゃねぇや。お仕置きに行ってくるんでマルクト代表でアスラン貸してください。名代ってまだジェイドなんですよねー。それじゃあ困るんでそれなりに権限持たせてくださいね、当然」

今、滅多刺しって言った。キムラスカの上層部を諸々と排除するつもりか、という視線が飛んできた。はっはっは、そんなまさか。お仕置きだって言ってるだろうが。

「…あぁ、うん。分かった、アスランは連れて行け…」

そして陛下はもはや何も言いませんでした。


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