そして、結局アニスはルークたちと共にダアトへ戻ってくることとなった。何してんだよテメェらさっさと国へ帰れっつーかなんでルークは髪の色も隠してないんだよさっきアッシュに言われたばっかりじゃん脳みそ詰まってないんじゃないの?なんて愚痴を言いながらも(声にはしてません)さくさくと教会へ向かって歩き出していた。

[前]と同じように潜入するつもりなのか、やる気満々の後ろの連中をどうするか、とアニスは頭を抱えていた。[前]と同じ状況ではない現在のダアトをの現状を説明してやるほど暇ではない。


しかし、街中、と言って差し支えないのか。そもそもあまり今日は人が少ないのだが。まぁ街中で神託の盾兵に囲まれていた。当然、その人たちが何処の所属なのか、アニスは分かっていた。シンクのところの団員だ。だとしたら、参謀派である為に危害を加えられることはない。それを理解しているのは、アニスだけなのだが。

「ルーク様、ナタリア様。このような場所で何をしておいでですか」

そう問いかけてきたのは、確か副官のなんとかって人だった気がする。いちいち他の師団の副官の名前まで覚えていられない。事実、師団長の名前さえ分かればそれでいい、とアニスは思っているし、それに何かにつけて命令という名の仕事を押し付けるシンクのことなど知ったことではなかった。

「なんですの、お前たちは!」
「そうよ、導師を攫っておいてこんなっ…!」
「…攫ったとは人聞きの悪い…。ダアトは導師のおわすところ。一体何の問題があるというのですか。所謂内部干渉と受け取っても?」

あぁ、嫌いなんだな、とふとアニスはそう思った。キムラスカが、というわけではないんだろうけれど。その副官の態度を見て、そっと溜息をついた。これでしばらくは楽に動けそうだ。とりあえずイオン様のところに行って、と算段を立てていたところ、1人の神託の盾兵がアニスへと近寄った。


「タトリン奏長であらせられますか?」
「え?あぁ、はい。なにか」
「我が師団長が礼拝室へ来るようにとの仰せつけで…」

げ、と言わなかっただけ偉いと褒めて欲しい。連絡はしてあるのに、呼び出しということは。此処にもしかしたら導師はいないのかもしれない、とふと思った。そもそも、普通だったらここにシンクの部下が出てくることはあまりない。フレイの部下ならあり得るが。分かりました、と口にしようとしたところで、ルークたちの声が聞えた。副官が、呆れながらため息をついて、あからさまに疲れたような声音で言った。


「ですから、キムラスカ兵もマルクト兵も不足している状況、微力ながら我ら神託の盾が親善大使一行をキムラスカへ無事にお連れするように、と導師より命をもらっているのです。それのどこが卑劣とののしられているのか、理解に苦しむのですが。ダアトへの、さながら導師への侮辱と受け取ってもよろしいのですか?」

素直に送られろよ、と軽く思った。既に、ティアが武器を手にしている時点でなんとなく分かった。あ、こいつら逃げ出す気だ、と。そもそもダアトの内情を説明していない方も悪いが、[前]という概念がなかったら素直に送られてくれただろう。こればかりは誤算としか言いようがない。

そして、アニスは先程自分へ言付けを言い渡してきた神託の盾兵へと、再び向き直った。この場からアニスが遠ざけられることは目に見えている。事実、自分の手を引こうとじりじりとルークが寄ってきているのが目に見えた。ガイにでもナタリアにでもお願いされたんだろう。


「…すみませんが、謡士へお伝え願いますか?追って次第を知らせます、と」
「了承しました。しかしお気を付けください。現在導師はー…」

そこで、言葉は切れた。最後まで聞き取れなかったのか、ティアがナイトメアを発動させたのと、ルークがアニスの腕を引っ張ったからという理由もある。引きずられるように港へと走りながら、何がお気を付けくださいなのか、聞き取れなかった!と憤慨するアニスの気持ちをくみ取るような人は、此処にはいないのだが。


そして、そのあと。アニスも一緒に連れて逃げ出してしまいました、という副官の報告を聞いて、やっぱりそうなったか、とシンクが疲れたように執務室の椅子で項垂れているのを数名の神託の盾兵が目撃していた。


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