直接聞くが早いか、とアニスは結論付けた。既に、タルタロスを泊めている港へと足を運んでいる面々を置き去りに、足を止めて。早々に気付いたのはガイだった。

「アニス?どうしたんだ?」


ガイの言葉に気付いたのか、全員が足を止める。俯き加減だったアニスはその声に顔を上げる。どうやら思考に専念しすぎていたみたいだ。全員の視線が集まるのを見て、微かにため息をつきたくなった。たった今、イオンがシンクたちに連れて行かれたというのに、どうして自分が着いていくと思ったんだろう、と。

「あたしはダアトに戻る」
「何を言ってるの、アニス」


そんなことしてる場合じゃないの、という声が聞こえてきそうだった。そのティアの態度に、アニスが深い深いため息を一つ落とした。何も言わず、アニスを見ているのはジェイドだけだ。他の面々は不思議そうな顔を隠しもしない。


「それはこっちの台詞なんだけど、グランツ響長」
「アニス…?」

階級で呼ばれたことからか、それともアニスの返答からか。困惑の様子が帰ってくるのが分かった。だからといって、やめるつもりはない。そろそろ色々と限界だった。[前]という概念を前に行動する彼らが嫌でしょうがなかった、といえば嘘ではないし。

「イオン様がシンクに連れて行かれたの。だとしたら、行き先はダアト。どうして守護役のあたしがイオン様なしにふらふらとその辺を歩いてられんのよあんた馬鹿?」
「ば、馬鹿だなんてそんな…!」
「アニス!言いすぎですわよ?!」
「別に言いすぎてませんよナタリア様」

そんな他人行儀にしないでくださいませ、と言い放つナタリアにアニスはもう一つため息を落とした。[戻って]きている前提で話を進めるのをいい加減やめてくれないか、とその意味も込めていたのだが、それに気付くはずもないだろう。ぐるり、と視界を変えて今度はルークを目に映した。


「そもそもルーク様、危機感がおありですか?此処はキムラスカ領土、その中をマルクト軍艦であるタルタロスでうろつくなど、突然砲撃されてもおかしくはないはずですが」
「…しかし、他に足がないのだからしょうがないだろう」
「そうですね。ならばどうぞご勝手に撃たれて下さい。とにかくあたしはダアトへ戻ります」

シンクからの命令で逐一報告なんざしてらるかよ、と内心で厭味ったらし緑っ子その1へと毒を吐きながら、アニスは踵を返す。しかし、今まで傍観を決め込んでいたジェイドにその行く先を阻まれて、アニスは眉を寄せた。今更なんだというのだ、というようにだ。そんなアニスの様子に気付いているのかいないのか、恐らく前者だが、ジェイドは笑顔だった。

「アニス、リンとシンクが入れ換わったのをご存じで?」
「知るわけないじゃないですか。そもそもバチカルの宿でリンは別任務があるとケセドニア方面に早々に向かいました。それに導師の影武者として入れ換わってるならともかく、どうして他団員の入れ換わりに気付けるんですか」
「導師の影武者、って…」

ガイが思わず、といったように呟いた。それまで説明しなければならないのか、とアニスは呆れたようにため息を零す。勿論、振り返らずに言葉を返す程度だが。

「最高指導者として、ありえない話ではないと思うんだけど。何のために教団兵じゃないフローリアンがあぁやって師団に混じってんの」

案に、気付けよ、とそう言っているだけなのだが。それに気付いたのか、気付いていないのかは推し量れない。しばらくジェイドが唸っているのが見えた。どうせ、[前]ではモースのスパイだったから、とアニスを疑っているのだろう。それは事実だし、その[前]をアニスは否定しない。

しかし、疑う前に裏付けを取ればいいものを、と小さく笑った。


「それならばわたくしたちもダアトへ向かいましょう!導師をお助けせねば!」
「あぁ、そうだな。六神将に攫われたイオンを救う方が先だろう」

ひくり、とアニスの頬が引き攣った。イオンを連れて行ったのはシンクだ。教団兵ではないフローリアンやアッシュではない。だとすれば、完全に身内沙汰であることは分かるのに。それに気付いているのか、ジェイドも呆れたようにため息をついていた。


(…内部干渉だよ、それ…。まぁこっちも言えた義理じゃないけど…)

モースがキムラスカに出入りしている手前、内政干渉です、と公言にして言えなかったアニスはその場で肩を落とした。とりあえず、ダアトに鳩を送らなきゃ、と。


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