真実と虚像が入り混じる世界


いなくなってしまったシンクとフローリアン、それからアッシュと名乗った彼と“イオン”の姿に一同は困惑していた。それもそうだろう。先程までいたはずの人間が忽然と姿を消せば、誰でも呆けるに違いない。そして、ジェイドだけは少し考えるような仕草をしていたが。

「ど、どういうこと…?何故急に姿が…」
「ダアト式譜術の一種でしょう」

困惑したティアに、そうすぐさま答えたのはジェイドだ。ばっと全員の視線がジェイドへと振り返る。アニスも、それ以外にないだろうな、と思いながらジェイドを見ていた。幾度となくあの術で脱走されているアニスは、それを知っていた。

「フローリアンとシンクが使っていたことから間違いないでしょうしね」


それは、少し間違いでもあるんだけど、と内心でアニスは呟く。どういうことか、あの術はリンにも、そしてフレイ様にも使える。その意図は分からないが、一度伺いを立てて見れば、教団内にある移転譜陣と同じものだという。あれは術式をあの場所へ固定させてあるだけで本来は特定の場所を起点にそこへ帰還するもの、だという。まぁ譜陣から譜陣への移動を教団内では取り入れているだけの話だが。


「…ねぇ、どうしてフローリアンとシンクがダアト式譜術を使えるわけ?それ、導師の特権のはずなんだけど」

そして、素知らぬふりでアニスが問いかける。勿論、何故2人が使えるかなんて、此処にいる誰よりも一番早くから知っていたアニスだが、わざわざそれを話してやるつもりもなかった。[前]は[前]だ。所詮、それでしかない。曰く、一種の預言みたいなものだとアニスは勝手に思っていた。
(だって、そうじゃん。今ならまだイオン様も生きてる。あたしがするべきことは、一つ)

「そ、それは…」

ナタリアが言葉を濁らしたのを見て、だろうな、と小さく内心でため息をついた。最も、それを悟られるようなマネはしないが。この中で[戻って]きていないのはアニスだけ、と思っているせいか、誰も何も言えない。そんな中で、話をずらそうかとしていたのかは定かではないが、ルークが口を開いた

別に、アニスは問いかけた言葉の答えを欲しかったわけではないので、特に気にもせずにルークへと視線を移していたが。


「…どうする。ワイヨン鏡窟へ向かうか?」

だから、どこをどうしたらそうなるんだろうか、とアニスは呆れた。知っているのだからそうする必要もないというのに。[前]という名の預言(のようなもの)に縛り付けられて、ひょっとして他のことを考えられないんじゃないの、思考の放棄なの?と呆れてため息も出ない。

「そうですね。行く必要もないかと思いますが、フォミクリーを破壊しておくにこしたことはありませんし」

あぁ、そういうことか、とアニスは妙に納得した。行く必要もない、という言葉に不思議そうにティアが首を傾げていたが。ジェイドの言うことも全くだ。フォミクリーの機械を野放しにしておくことは出来ない。


(…あれ?そもそも、どうしてフレイ様はフォミクリーって機械を容認してるの…?)

思い当って、アニスは首を傾げた。イオンやシンクが、レプリカだと知っているなら(あの場所にいて知らないなんてことはないだろうけど)、フォミクリーというそれを容認するような性格ではないことは、アニスはそれなりに分かっていた。


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