act.10


「あれ?戻ってきてたのか」

食堂に行こうと思ってたアスベルの目の前にいたのは、ジェイドに頼まれた仕事をしに此処を離れていたはずのガイとティアだった。その二人の目の前にいたルークが振り返る。アスベル、と名前を呼ばれて首を傾げながら、そのガイとティアに近づいていく。

「思ったよりも早かったな」
「えぇ。途中でナバージュの研究者に会ったのよ」

アスベルの方を見てティアが言葉を続ける。少し体をずらしてその先にいる4人の姿をこちらに向けた。ルークも先ほどホールに来たばかりなのか、頬を掻いてその4人を見ていた。子供がいたのは若干気になったが。ジェイドが今、本国に報告しに戻っている。つまり今此処にいる大人(いうに未成年ではない人間)はアスベルとガイしかいない。自己紹介を聞きながら、こちら側も同じように自己紹介を返す。

「それで、マナの代替エネルギーってどんなものなんだ?」
「それがよく分かっていないの。ラルヴァと呼ばれているものなのだけれど、生成方法もよく分かっていないのよ。ある日突然村に入ってきたエネルギーなの」

リフィルと名乗った科学者(本人が言うには考古学者らしいが)が困ったようにそう告げた。その言葉にアスベルは眉を寄せる。この世界で言うマナや、アスベルの住む世界に存在している原素とは意味が違う。元々その世界にあったエネルギーではなく、ある日突然現れたエネルギーをよく調べもしないで使うということは、無謀ではないのか。アスベルの態度にルークは首を傾げていて、ガイが苦笑いをしていた。

「元々マナの恵みが少ない土地だったのよ。ラルヴァ推進派に邪魔されて、ロクに研究出来ない状態だったの」
「んで、どっかに研究設備の整ったところっつってグランマニエに行こうと思ってたところだったんだよ。親善大使が代替エネルギーについて遊説して回ってるって聞いていたからな」
「あ、ゼロス」

ふと、気付いたようにルークが声を上げた。その言葉に、ぎょっとなってルークを見たのは使用人であるガイと、向こう側にいるブロンドの髪のコレットと茶髪の少年のロイド、それからリフィルだ。ティアは知り合いだと知っていたのか、特に何も言わずにいた。アスベルがゼロスと呼ばれた彼に顔を向けると、ルークと似たような赤く長い髪を靡かせて笑っている彼の姿が目に映った。

「え、知り合いだったのか?」
「グランマニエの皇族と知り合いだったんだね〜」

驚きの声とおっとりとしている声に、ゼロスががくりと肩を落としたのが見えた。ティアが言うには、割合有名な貴族の出だというらしい。国外のことなのでティアも少ししか知らないらしいが、グランマニエとはわりと交流がある家らしい。マナを奉ずる神子の家系だということもあるのかもしれない、とは言っているが真相は分からないとのことで。

「おいおいルー君!よく見なきゃわかんねーのかよ」
「だってもうあれから2年くらい経ってるし」
「あれ、ねぇ…。まぁそーなんだけど」

肩を落としたゼロスと苦笑いのルークに首を傾げる面々。二人の話を此処で掘り起こすようなことはしないが。興味がないわけではないが、わざわざ聞くことでもないとアスベルは思っていた。もっとも今ここで話をそらさないとロイドあたりが口を開きそうだと思ったらしくガイがアスベルの方を見た。

「ところで旦那は?」
「ジェイドさんなら一旦本国に戻るって言ってたけど…。あぁ、連絡貰ってるから大丈夫。とりあえずリフィルさん。この船には設備が整ってますから、こちらで研究されてはいかがですか?」
「いいのか!?」

ぎょ、と詰め寄ったリフィルにアスベルは一歩下がった。急に態度が変化したような気もしなくはないが…。苦笑いのような表情を浮かべたアスベルに、困ったように後ろでロイドが笑っていた。勝手に此処で研究させてもいいのか、とティアがアスベルを見る。詰め寄ってきたリフィルから顔をそらし、後ろに顔をぐるりと向けた。

「元々、そのつもりでジェイドさんもこっちに機材積んでいたみたいだから、もしも研究者の方が来たら使ってくれて構わないって。チャットには許可もらってるから、大丈夫」
「そう?ならいいんだけれど…」

ジェイドには結構無茶苦茶な節があるから心配だ、とガイがぼやいていた。こちらの提案にあっさりと乗ってきたリフィルにアスベルが苦笑いしていると、よかったですね先生!とコレットから声が上がった。ロイドとコレットにアスベルが顔を向ければ、笑顔の二人がそこにいて。どうやらルークとゼロスは話をしているようだった。

「先生…?」
「はい!私たち、リフィル先生の生徒なんです」
「あのさ、ここってギルドなんだろ?俺たち元々ギルドの仕事してたんだ。ただで置かせてもらうのは悪いから、ギルドの仕事手伝わせてくれよ!」

コレットの笑顔を押しのけるようにアスベルに一歩寄ったロイドは笑顔だった。また子供がどんどんと増えて行くな…。と言わなかったものの、アスベルは顔にそれを浮かべていた。それに気付いたのは、恐らくガイだけだろうが。それに、ロイドの提案を断る理由もない。なんだかんだでコレットもどうやらやる気らしい。元々していたというのならば、別にかまわないだろう。それでも一応、船長のところには行ってきてね、とティアに言われた二人は嬉しそうに笑っていた。

「それにしても…。この船は随分変わっているな」
「バンエルティア号って名前だったかと…」
「なにぃ!?あのアイフリードがかつて乗っていたと言われているあのバンエルティア号だというのか!?実に興味深い!!」
「……あ、あれ?リフィルさん…?」

アスベルの言葉に、急に豹変したリフィルは床に頬ずりを始めてしまった。その様子に一歩引きながらアスベルとティア、それにガイが見ていると慣れているのかロイドがあっけらかんと「先生は遺跡マニアなんだ」と言い放った。つまり、古代の遺産とかいうものに目がないらしい。そんな様子のリフィルたちがギルド、アドりビトムに加わった日。


|
[戻る]