act.11


「あ、ロイドたちおかえり」

甲板で洗濯物を干すのを手伝っていたところ、ちょうどラルヴァの公開実験を覗き見(正式に招待されたわけではなく、こっそり鉱山の中から見ていたのだから覗き見という表現で合っている)してきたロイドたちが帰ってきた。何やら暗い面持ちで挨拶もそこそこにリフィルは報告へ中に入っていってしまったが。

「ただいま、アスベル」
「どうだった?」

にっこり笑って挨拶を返して来たコレットにアスベルも笑顔を返す。気になることを聞いただけなのだが、途端にコレットもロイドもジーニアスも、何やら難しい顔をしてしまった。その態度に首を傾げ、もう一度聞こうとした時。背後から誰かに呼ばれた。

「アスベル、ちょっと来て欲しいんだけど」

振り返るとカノンノが入口から顔を出して手招きして呼んでいる。呼ばれてるってことは依頼の類だろうと思い、持っていた洗濯物をかごに戻す。そして同じく洗濯物を干していた姿を探して…一番近いところにいた少女に声を掛ける。

「エステル、ちょっと呼ばれたから行ってくるよ。あとお願いしていいかな?」
「あっ、はい!分かりました。いってらっしゃい、アスベル」

ついこの間、このギルドに入ったばかりのエステルが嬉しそうに笑った。どうやらいいところのお嬢様らしく、やったことのない洗濯物を干すという作業をとても楽しんでいた。同じく洗濯当番だったイリアが「何が楽しいのこんなの…」と愚痴を零していたことは言うまでもない。

「ごめん、ちょっと行ってくるよ」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」

こちらから話を振ったというのに、申し訳ない。そんな気持ちでアスベルがロイドたちに頭を下げると「気にしないで」とコレットが笑って送り出す。正直、ロイドたちも助かったと思っていた。あんな実験内容を、どうやって説明すればいいのか思い付かなかったからだ。口に出すのも憚られてしまうほどのものだった。


アスベルはカノンノに呼ばれた通りに機関室に向かうと、チャットの元に見慣れない二人の少年の少女がいるのが見えた。カノンノが「呼んできたよー!」とチャットに向かって手を振る。

「ああ、来ましたね。依頼ですよアスベルさん」
「俺とカノンノか?どんな依頼だ?」

その二人の少女と少年に気付いてはいたものの、とりあえずあとで聞こうと思ってチャットに返事をする。すると、予想外にこの二人に関する依頼だったらしく、二人が唐突に自己紹介を始めた。

「初めまして!俺はカイル。で、こっちが…」
「リアラです」

意気揚々と名乗ったカイルとは対照的にリアラがぺこりと頭を下げる。突然の自己紹介にカノンノと顔を見合わせ、不思議そうな表情をチャットに向ける。するとその疑問を汲み取ったのか、二人の保護者のようにも見える赤い髪の女性が口を開いた。

「実はこの子たち、ちょっとわけありでね。天才ハロルドの知恵がどうしても必要なのさ。そのハロルドってのはあたしの元同僚なんだけど…居る場所が場所なもんで、依頼したくって」

なるほど、人探しの依頼か。ナナリーと名乗ったその女性の言葉に妙に納得した。聞けば、どうやらそのハロルドという人物はカレンズ諸島にいるらしい。その聞いたことない地名に首を傾げると、こっそりとカノンノが耳打ちをアスベルにする。

「カレンズ諸島っていうのはレーズン火山がある場所なの。確か数年前に村が一つ滅んでて…あんまり縁起のいい場所じゃないんだけれど。なんでハロルド博士はそんなところでバカンスなんてしてるのかな?」

心底不思議そうな表情で話すカノンノに、「ああ…」となんだか妙な納得をしてしまった。そのハロルドというのは有名な研究者らしい。研究者といえば変わり者が多い。アスベルも、一人。変わり者の研究者を知っていた。確かに彼女に置き換えてみたら…、そんな場所に行きたいというか行ってみたいというか、そういう感情になることも納得できた。

「…研究者って変わり者が多いからなぁ…」

何かを思い出すようにそう呟いたアスベルに、カノンノが「え?」と問いかける。なんでもない、と苦笑いをして流した。カレンズ諸島のレーズン火山にハロルド博士がいる、というのは分かっているらしいがレーズン火山は魔物もいる場所だ。危険を伴うからアドリビトムに依頼を出したんだろう。それも納得だ。

「そのハロルド博士を連れてくればいいんだな?」
「そういうことさ。まー…一筋縄ではいかないと思うからあたしも一緒に行くけど…。この子たちが勝手に行かないように見張っててくれるかい、船長さん」

勝手に、という部分をかなり強調してナナリーがそうチャットに頼み込む。チャットも仕方ないと思いつつそれを受け入れた。対するカイルは不服そうな顔をしていたが。

「えー!一緒に連れてってくれてもいいだろ!」
「駄目だ!あんたらに何かあったら困るんだから!大人しく待ってる!」
「しょうがないわ、カイル。一緒に待ってましょう?」
「うう〜…リアラ〜…」

頬を膨らますカイルを宥めるリアラに思わず笑みを零す。仲良しだねぇ、とカノンノがどこか嬉しそうに言うのが聞こえた。


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