※不快感&不謹慎with近親相姦
※里を抜けたマダラが12歳の少女を連れて帰ってきて扉間が被害を受ける話

▽ ▲ ▽


 叔父さんに手を引かれて里の大通りを悠々と歩くわたしを銀髪の人は何か汚物を視るような場違いな瞳でねめつけて、ただでさえ白そうな顔を更に白くさせていた。
 鉄は穢れを引き寄せる。そこに馨しいほどの血と埃の匂いがまとわりついている。彼は、夜露に濡れた苦無のような匂いを漂わせながらも、両頬と顎に入れた紅い染め抜きが、まるで歌舞伎の隈取のようにどことなく浮世離れした文芸の色香を醸している。
「ねぇ、あの銀髪の人、知ってる?あの人はだれ?」
 わたしは右手を引っ張る男に聞く。叔父さんは視線の先を辿って、「ああ」と鼻の奥で笑い、「お前が会いたがっていた男だ」と抒情たっぷりに言い放つ。
 そうなの……あの人が。一応帰省した形になるとはいえ、まったく郷愁のわかない土地にきてしまい少し縮こまっていた胸が、ほろりと解ける。あの人がここにいるということは、やっぱりわたしここにいていいんだ。
 鉄錆のような切れ長の瞳は雑踏に紛れて視えなくなったが、背中にあの人の視線を感じる。いいえ、背中じゃない、この手だ。叔父さんと繋がれている、この右手を見ているのだ。
「あの人、すごくかっこいい」
 素直に思ったことを呟けば、叔父さんは片眉をひくつかせてまた喉の奥で笑った。正面を向いて歩いているこちらからでは、本当に叔父さんが眉をひくつかせたのか分からないが、この人の醸し出しす雰囲気は気配でわかる。
 ぬるい風が土煙を巻き上げて、大通りをびゅうと吹き抜けていく。この男にとっては数年ぶりのふるさとになるこの土地は、しかし彼を好意的に迎えることなく、既に完全な異物として認識していた。誰もがその顔と佇まいを見ると道を開ける。何も険しいしかめっ面なんかしていないのに、名だたる忍の誰も彼もが男の顔を認識した途端驚愕に目を見開き、はっと息を呑んで口を噤む。打ち合わせたように綺麗に人垣が割れて、そっと閉じる。それの繰り返し。
 わたしはとても奇妙な気持ちになって、繋がれた右手を少し強めに握りしめた。自然と片側の頬がつり上がり、にこ、と僅かな笑みを浮かべるが、わたしは自分がそんな顔をしていることに気付かない。
 どうしてなんだろう。わたしは、己の心の中に湧き上がっては霧散する泡のような疑問を見つめる。”どうしてなのだろう”。
 6年前、今まで在籍していた旅芸人の一座を離れ、母さんに連れられて風の国を出て、火の国からも風の国からも遠く離れたとある山村でわたしは”うちはマダラ”に出会った。叔父さんと呼べと母に言われたものの、その男と初めて相対したとき、一番最初に抱いた印象は『真っ黒くて大きなヤマアラシ』。幼い6歳の女児が、大人の、知らない男性に抱く一般的な恐怖は抜きにしても、まるで鬼や神といったこの世のものではない事象を前にしたときのような威圧感と、滲み這う蔦のように絡みついてくる畏怖があったことは覚えているので、彼を遠巻きにする人々を決して笑うことはできない。その後母は死に、わたしは『叔父さん』と共に彼が探し求めていた何かを追う旅に、同行する形で、共に過ごしてきた。
 さて、しかし、彼は元々この里の生みの親ではなかったか?
 叔父さんが”子どもら”に失望したのと同じように、”子どもら”もまた”親”に失望したのだろうか。しかめっ面なら、さっきのかっこいい人の方がずっと怖かったし、それに比べたら叔父さんは、笑うと二重瞼と涙袋の二重線がニッて細く刻まれてとても愛嬌があるのに、その産み育んできた深い愛のまなざしを、彼らは恐れるというのか。
 とはいえわたしも、千手柱間とうちはマダラが里を興すまでの経緯は、寝物語に母から聞いた部分が大きいので、確かなことは知らない。男と床を共にする母が、まるでテント越しに耳を傾けている子どもが見えていて、それに語り掛けるようにして、はっきりと、穏やかに喋るのを、毎夜のように聞いていたのだ。母の話は、その後当人であるうちはマダラと関わるようになったことで、より正確なものへと刷新されるかと思いきや、この叔父さんは常にむっつりと口数少なくいつも死んだように真顔でひたすら山奥へと足を進めていたので、そのあたりについて得られた情報はない。よって、『昔の叔父さん』について知っている知識は、夜、とろりとろりと語られていた母の話を、直接参照するしかない状態だ。
 ゆえに、わたしには理解できなかった。
 この人が関わった人々を、想いの深い順に平たく並べたとしたら、その膜のいっちばん外側境界線上にいるのがわたしだ。だから、わたしが6年間かけて見てきた慈愛と失望の貌を、ここの住民もまた見てきた筈だと、考えるほかないのである。
 こんな思いをしてもまだ里に帰ってきたかったんだって、不思議なものだ。わたしならとても耐えられない。わたしは見た目通りの12歳で、生まれてこのかた子育てをしたことがないし、少なくない年月を過ごしたコミュニティから一旦抜けて、再び戻ってくるという経験もしたことがないから、実際耐えられるかどうかは分からないが、想像するだけしてみるととても耐えられる気がしない。しかも、叔父さんはそれら含めたすべての現実に、失望していた筈なのだ。
 よって不可解である。
 この人はどうして里に帰ってきたのだろう。
 里の大通りは徐々に細かく枝分かれ、ふと気づくとわたしたちが歩いていた道はリズミカルに伸びる梅のように細く苔むしている。往来の激しい通りは、宙に舞った埃が黄色く光を反射して、ぼんやりと籠った明るさを保っていたが、次第にそれらは地に落ち着いて静かな空気が流れるようになった。湿った空気が、苔むした岩肌に埃を吸着して、視界は透明に済んでいる。そこに男が、1人で歩いている。
 きっとそれはわたしのいなかった頃の叔父さんだ。今は隣にわたしがいる。その時わたしは、この人が何故里に帰ってきたのか分かった気がした。激動が胸を吹き荒れて、口の中が熱くなる。共に過ごした6年の月日が渦上になって、胃の中で沸騰している。
 きっと誰もが一人にするこの人を放っておけないと思って、共に旅をしてきた。この6年間、雨の日も雪の日も赤い日も白い日も。
「シオン、今日からここがお前の里だ」
 叔父さんの太い親指が、繋いだ右手の親指を、ぞう、と撫でる。その言葉はわたしを大海原に解き放つトキの声。小さな絶望と大きな不安が胸を掻きむしり、「大丈夫?」と聞くと、「ああ大丈夫だ」と男は言って、わたしの頭を撫で腰を屈める。
 男の広く大きな掌が、頭を滑り、両頬をすっぽりと包み込む。男は手が大きいので首から頬にかけてをまるくすっぽり包み込めてしまう。そうされるのがわたしは昔から好きだった。男はあえやかな笑みを浮かべて瞳を朱に染めると、わたしのそれも呼応するように朱に染まる。
 屋敷の近くに人気はない。悪魔の屋敷に近寄る男は一人のみ、小姓もいなければ女中もなく、それは今までわたしの仕事だった。男はぐいと後頭部を引き寄せてわたしを愛する。わたしも同じように、その人を愛す。何度もふれた唇がわたしの小さいそれを優しく啄む。今まさに最後の手綱を離して独りぼっちになったその男を、憐れみと、信頼と、永遠に変わらぬ愛に誓って「マダラ」と呼ぶ。
 さようなら、マダラ。
 今までありがとう。



 もったりとした曇天が乳のようにぶら下がっていた。北の山脈より吹き込む風が生臭い泥の匂いを運んできており、ときおり雲間に顔を出す白い太陽が局所的に地を照らしてくるがだいたいは雲の向こうを白く散乱するばかりでどうにも晴れそうにない。
 うちはマダラが里に帰ってきたという速報が舞い込んできたとき、第一次忍界大戦前で殺伐とした議論が飛び交っていた会議室では、瞬時に、二人の男が別々の理由で息を吐き目を伏せた。一人は、巨木のような鈍重な精神力と野放図に伸びた根のような踏ん張り強さを併せ持つ我が親愛なる兄者であり、彼は不安を滲ませながらもはちきれんばかりの期待に眼を潤ませて、翼があるなら今すぐ飛んでいきたいとばかりにウズウズと椅子の隅っこを齧る。そしてもう一人が、早鷹が運んできた見張り番からの情報に、1つ妙なざらつきを覚えた扉間である。
 『マダラ様は一人の子どもを連れている。12か、13ばかりの、少し痩せた黒髪の長い少女の手を引いて歩いている。』
 何故かその情景がありありと脳裏に浮かびあがり、扉間は益々混乱した。まず、何故今更になって里に帰ってきたのかということ、次に何故、ともすれば女嫌いとすら吹聴されるほど女と相性の悪かったマダラが、子どもであろうが仮にも女を連れ歩いているのかということ、そしてその子供は誰で、マダラとどのような血縁関係にある人間であるかということ。最後に、何故自分はマダラとその少女が右手を繋ぎ旅装束に身を包んで雨水滴る曇天の山道を歩く姿を想像したのかということ。
 火の国大名に要求する任務請負額について大詰めを迎えていた会議室は、その後一応の落ち着きを取り戻し本来の題目に戻ったが、皆妙に気がそぞろで結局あまり完成度の高い話し合いはできなかった。だがそれは自分とて同じこと。
 腹掛の縁と肌が擦れて痒い。今は六月、むしむしと鬱陶しい湿気がどこかしこに満ちていて、むせかえるような草と生の匂いを漂わせている。気道を埋め尽くすような細かい水蒸気の粒が真綿で締るように扉間の呼吸を細く浅く圧迫している。火影室の窓から見える蔦の簾は、普段ならば心のいっときの涼風を運んできてくれる瑞々しい新緑であるが、今は2人の人影がちらついて心をざわめかせる。
「マダラは本当に帰ってきてくれたんだろうか」
「さあどうだろうな。俺は今すぐやることができたから地下に潜る、兄者はくれぐれも立場を弁えることだ、いいな」
「ウッ、厳しいのう扉間。せっかく旧友と再会できるかもしれんというのに……」
 柱間は影傘と火影羽織をテキパキと脱ぎ散らかして椅子周りに乱雑にひっかけると、麻の着物をぱたぱたと仰ぎながら空気を入れて「ふう」と息をついた。
「しかしこの服は本当に暑いの〜どうにかならんのか」
「どうにもならん、黙って着ろ。まだ始まったばかりの里で、火影の持つ記号的な意味を視覚化するのは大切なことだ」
「マダラも毎夏の暑さに耐え兼ねて、氷見堂の氷菓子が食べたくなったのかもしれん!」
「そんなわけがあるか。兄者、安心するのはまだ早い」
「まだ?」
「そうだ。マダラが、何も考えずに戻ってくるとは思えない。もしも里で、何か――」
 扉間が一旦言葉に詰まるのとほぼ同時に、にこにこと嬉しそうにおどけていた柱間は「いや、」と声を繋げて、スッと真面目なカオをした。
「いや……マダラは、何かことを起こす気はないだろう。もうとっくに、里にマダラの居場所はなくなっている……オレとてその程度のことは分かる。それでも帰ってきたのだ、今から何かしようと考えたのなら、このように堂々と姿を現わす筈がない。いかにマダラであろうと、がんじがらめに監視されてはな」
 珍しく、自分の意見に客観的事実を交えて長々はっきりと答える兄に思わず閉口し、「……分かっているのならいい」と低い声で答える。
 これ以上、何を言えようか。
 俺は、自分に対する事象にはとことん鈍い兄がそこまでマダラを理解していたという事実に驚いていた。兄者はてっきり、マダラが何故里を抜けたのか、兄者に何を求めていたのか、そして次会うとしたらどのような形になるのかをまるで予想できていないものと思っていたのだ。
 柱間は机の上を指でさらりと撫でて、そのままじっと首を傾ける。
「……これ以上は、ない」
「なに?」
「刃越しでないのなら、これ以上の幸せはない」
 床板の木目に何が書いてあるのだと思うくらい、じいと地面を見ながら呻く。あまりにいたたまれなくなって、「マダラの監視はワシが全て取り仕切る、異論はないな」と言い捨てた。異論がないことは分かっていたので返事は聞かずに部屋から出て、その足で火影邸を出る。
 目指すのは火影岩の更に奥にある山の中の地下室だ。そこに新設した火影直属特殊部隊の本部があり、今からやるべきことというのはマダラの監視任務に就く忍のリストアップと召集である。
 里の皆は兄者を光だという。忍の神、などと外野よろしく崇めたてる声もチラホラ耳にする。彼らは聞いたことがあるだろうか。万年杉の幹の如き勁い光を放つ兄者の、掻き消えるほどに低い一言を。誰にも気づかれず、黒い墨の中に埋もれていく強い覚悟を。
 あの真っ暗に沈んだ瞳とその縁に滲む涙に気付く人間はこの世に誰一人としていない、俺を除いては。当人すら気づかずに、それは森の風に消える筈だった。



 嵐の翌日はカラッと晴れて、早くも梅雨は終わってしまったのかと思うほどの強い日差しが降り注いだが、それもすぐにまたシトシトと続く長雨に覆われた。里創立以来の6月最高気温を記録した先日とは打って変わって、ひんやりと肌寒い夏至の昼、扉間はしまいかけていた春先の羽織を探していた。
 確かこの箪笥の中にしまったはずである。兄と違って、毎年決まったものを決まった場所に入れなければ気が済まない性質なので、いややはり絶対この箪笥の中に入っている筈だ。俺は膝をつき箪笥を下段から順番にごっそり引き出して、一枚ずつ衣を指で捲り始める。
 一段目をしまいこみ、二段目の引き出しをスレスレまで引き出したところで、来客の気配に耳を澄ませた。わざわざチャクラを練るまでもないが、直観的にそれが見知った人間ではないと思った。まず兄者ではないし、恐らくサルたちでもなく、毎月の恒例会議に出席する族長たちでもなければ、近所に住む千手のものたちでもない。
 千手の人間でないことに扉間はほっとして、布を探す手を止めてしばし息をついた。マダラが帰ってきたことで、不快感や不信感をあらわにする千手の人間は数多く、兄者の手前おおっぴらにこそしないものの目に見えぬ感情のうねりはとても鬱陶しい。鬱陶しいと言って撥ね退けるようなものじゃないが、おおきくよそよそしく膨れ上がる薄膜に包まれたそれは、同族の集まりに顔を出すと否応にも肌に触れる。俺に、どうしろと!
 しかし妙である。その気配は、確かにこの千手宗家の母屋を潜ったはずだが、なかなか正面の両扉を開けようとしない。庭を回って縁側からこの部屋に入るつもりだろうか、だとしたら矢張り、見知った人間か。
 扉間は服を漁るのを辞めて箪笥の前から腰を上げると襖を開けて縁側に出た。それと同時に、来客が角を回って鯉池のある広い庭に姿を現し「、」と足が止まる。
 癖のない、黒く長い髪。うちはの伝統衣である襟ぐりの開いた紺地の上衣を腰布で縛り、そこから足首の出るゆったりとした穿袴がひょろりと伸びている。
 間違いない。
 里の大通りで見かけた子どもだ。成長期らしいコツコツした細い手を、マダラとしっかり繋いで、割れる人垣の間をぱきぱきと歩いていたあのおなご。
 ぽちゃんと鯉が跳ねたとき、赤い瞳が視界いっぱいに移りこみ、咄嗟に視線を逸らした。しまった、と思う。写輪眼と目を合わせてしまった。今こそ、うちは一族に対してそのように視線を逸らすことは奨励されない時代になったが、一昔前は彼らとまともに目を合わせる忍などいなかった。うちは一族に対して、瞳術を持たない他の一族が取ることができる最も簡単で初歩的な対策は、眼の少し下、口元あたりをぼんやりとみるという視線誘導だった。幼いころから染みついたその癖が、今になって突然身体を動かしたのだ。
「あの、突然お邪魔してすみません。うちはシオンです、千手扉間という人に会いたくて来ました。あなたが……」
 女子は、顎を引いて、背筋をしゃんと伸ばして、それでもまるで幽霊のような佇まいで歩み寄る。
「千手扉間?」
 舌がざらつく。土と水と埃の匂いが、樹木の醸し出す濃い生気とともに部屋の中に吹き込み気道を圧迫する。「そうだ」と言って、襖を大きく開けてもう片足も縁側に出て、扉間は注意深く彼女を観察する。
「何の用だ。他人の家を訪問するときは玄関からと教わらなかったか?」
「ひとところに留まることなく旅をしていたので、そういう機会がありませんでした。っていうのは、冗談で、ごめんなさい……なんとなくこっちから来てみたくて」
 女子は写輪眼を引っ込めて、黒くまるい瞳をひたすらにまっすぐ向けたまま、口を、きゅ、と右斜め上にひきあげる。その笑い方は家猫を思わせるが、肘から指の先端まで丸出しの肌は日焼けと摩耗で旅人の特徴が見える。ぽぉん、ころん、と足を投げ出すような歩き方は、足元の悪い山道や岩肌を長年踏みしめてきたそれではなく、人の懐に入り込みやすいように計算されているように見える。しかし、産まれてこのかた誰にも調教されてこなかった野生児のような、土の匂いもする。
 襖にかけていた手をすうと滑らせて、軽く顎をしゃくって彼女を畳に上げた。何の用だか未だ釈然としないが、庭でチロチロされても気に障るし、手持無沙汰にしているところを見るに何か話がしたいのだろう。
「お邪魔しまーす」
 暗部から上がってきた報告書を思い出す。
『うちはシオン、今年で12歳。うちはマダラが里を抜ける際は伴だっていなかったが、写輪眼を確認したのでうちは一族と思われる。口元や目元の特徴から、うちはイズナの面影あり。詳細不明』
 報告書より先に実物を見ていた扉間は、うちはイズナの文字を見て、また何かがざわついた。”うちはイズナ”?他にもっと、特筆すべき部分があるだろう。
 椿油を挿した良い櫛で何度も梳かされたような、艶のある長い髪。調子のいい若木のような背筋と、整った目と鼻。黒い瞳。
 まるで兄者だ。この間誰かが使った座布団を放ってやって、小さな卓袱台で直角の位置に座った扉間は、改めておののく。小さくても、土にしっかりと根をはるような佇まいは、過ぎし日を共に過ごした柱間兄者によく似ているではないか。
「ワシに何か話があるのか」
「ええ、はい、勿論」
 また鯉が跳ねる。シオンは行儀よく正座しているのに、遊女のような仕草で口元に指を添えてふふふと笑う。その笑い方が気に障る。「その前に、」と扉間はくぎを刺した。
「里の中では、むやみやたらと写輪眼を出すな。相手に敵意在りと証明しているようなものであるし、疑心を煽る愚かな行為だ。失礼極まりない」
「あ……ごめんなさい。もうやめます」
「ごめんなさいではない、こういうときは、”すみません”か”申し訳ありません”と言えばいい」
「ごめんなさ、あ、はい。すみません……」
 12歳の女子は素直に頷き、扉間も、わかったならよろしい、とばかりに頷いた。まるでサルやカガミにするように振舞ってしまい、内心で舌打ちする。この数年で教師役が板につきすぎた。
「……お話しについてなんですけど、えっとー、わたしはとある理由により千手扉間をここに留めておかなければなりません。そのために、一つなぞなぞを出します。正しい解答を得られたら、あなたはここから出られます」
「なるほど。……チッ、こらえ性のない…」
「分かったの?」
「兄者がフケたのだろう。まあ、奴が――お前たちが帰ってきてもう一週間だ。そろそろ我慢ならずに”マダラと二人で語らいたい”などと言い出すのではないかと思っておったわ。一日くらいならワシも許す……つもりでいた」
 ぐるり、と首を回して目の前の子どもを見る。
 写輪眼を出してはいないが、と思いながら女子の眼を目を凝らし、「なぞなぞだと?」と言う。自然と、剣のある声色であったが仕方がない。
「……マダラがそうしろと言ったのか」
「まさかぁ、わたしの仕事は足止めです。方法は任せると言われたので――」
 鯉が跳ねる。
 ”また、鯉が跳ねた。”この池の鯉はこう何度も跳ねない。扉間はこきりと肩を鳴らして、自分自身に苛立ちながら、「それで幻術か」と言葉を遮った。
 にぃ、と子どもが笑い、鉱物のような透き通る朱もつられてくったくなく笑った。

(二に続く)
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