卒業[高校卒業/財前片思い/叶わない]
毎年、聞き慣れた卒業の言葉を並べ卒業していく。
ついに自分の代になって、改めて聞き慣れた言葉を聞くと気持ちが悪い。
卒業この3年間は、中学の時とあまり変わりはなかった。
敷いて言えば、金太郎に落ち着きが出て、ちょっと謙也先輩がモテるようになった。
だが、この3年間を一言で表すなら「苦」だと思う。
ことの発端は謙也先輩。
謙也先輩には、高校に上がってから立派な彼女が出来た。
紹介された時はただ謙也先輩と彼女を交互に目で見ることしか出来なかった。
あの時の2人の笑顔は忘れる事が出来ない時点で、俺は未練タラタラかもしれない。
ただ、相手が謙也先輩だけに略奪する気もなく「よかったやないですか。」としか言うことが出来なかった。
謙也先輩の彼女は、中学の時からの同級生であった。
家庭部部長で、よく謙也先輩の所に遊びに行くとお菓子やらケーキなどを貰った。
笑顔が可愛い人で、金ちゃんもよく懐いていたのを覚えている。
高校上がってからも家庭部に所属していて、よくお菓子を貰った。
そんな先輩が昨年卒業して、顔を合わせる事なくなった。
忘れていたつもりだが、卒業式が始まるとどうでもいい言葉より先輩の顔が浮かんできた。
卒業式は無事終わり、クラスメイトと写真を撮ったりしていた。
ここの教室を使うことは二度となく、クラスメイト全員が合わなくなると思うと、少し涙が出そうだった。
教室を出て、歩いていると上の方の窓から声がした。
「光ー!!!卒業おめでとさん!」
「金ちゃん…。」
「なんやーそんなにわいに会えんくなるのが悲しいんかー?」
「阿呆。せいせいしとるわ。」
「素直やないなー!」
「全国大会楽しみにしとるで。」
「まかしとき!!!」
金ちゃんは、少し涙を浮かべて笑顔で答えてきた。
「ほな!元気でなー!」
大きく手を振ってきたので、手を振って返した。
それから、結構揉みくちゃになりながら校門に向かった。
校門まで行けば卒業生とその親しかおらず、随分と気が楽になった。
気がつけば、ボタンは完売。
1個も残っておらずもう学ランの前を締める役割は果たせない。
とりあえず、帰るために友人たちに挨拶をしていった。
「財前くんおめでとう!」
後ろからすごく懐かしい声がした。
「財前おめでとう!」
その後には思った通りの声も聞こえた。
「なんや、冥子先輩やないでスか。」
俺は振り返って答えた。
「おい!財前!」
「なんや、謙也先輩も居ったんでスか。」
「おるちゅーに!てか、今おめでとう言うたやないか!」
「聞こえてますわそんなん。」
「なっ…。」
「財前くんもついに大学生になるわけだねー!」
「やっとでスわ。」
「楽しみ楽しみ!」
冥子先輩は笑顔で頷いていた。
俺も先輩と同じ大学に行くのは楽しみだが、でもそれにしたら謙也先輩の存在が邪魔でしかない。
「なんや、冥子先輩はまだこんな先輩と付きおうとるんですか?」
と俺が指を指しながら言えば、「おい!コラ財前!こんなんてなんや!!!」と謙也先輩に言われた。
その状況を見ていた冥子先輩はただ笑っていて、「こんなんだから好きなんだよ財前くん。」と笑顔で返された。
俺は2人の馬鹿ップル具合に呆れるしかなかった。
でも、そんな先輩2人が嫌いにはなれない。
「そんな見せつけんでええですわ。何しに来たんですか、ほんま。」
強がりだと思う。
本当は会いに来てくれてすごく嬉しい。
「そや!今日な夜空いてるやろ?」
「決めつけんで下さい。」
四天宝寺の先輩は、なんでこんなに急なことばっか言う人ばかりなんだ。
「なんかあるんか?」
「ないでスわ。」
「白石くんがな、財政くんの卒業祝いやろうって!」
「は?」
「『部長命令や!6時30分にいつものたこ焼き屋や!』やて。財前くんは手ぶらで来るんやで!」
「ほんまお節介好きな先輩ばっかで。」
「まあ白石の時点で、逃れへんやろな。」
「ほんなら部長に言っといて下さい。」
「ぜんざいもよろしゅーお願いしまスわ。って」
「おう!」
謙也先輩は笑顔で手を振って「あとでなー!」と言って、横で可愛らしく冥子先輩が手を振っていた。
この気持ちから卒業出来る日はくるのであろうか。
いつまで経っても顔を見ると、好きの気持ちが膨らんでしまう。
どうか俺を解放させて。
2014.03.13
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