温[学生/冬/同じクラス]

今季初の雪が降った。

その雪は積もり、気がついたらあたり一面真っ白になっていた。

雪はお昼まで降っていて、気がついたら止んでいた。

「今日は雪合戦決まりだな。」

同じクラスの佐伯くんが、私の横で呟いた。







「えっ雪合戦?放課後にやるの?」

私は佐伯くんの方を向いて聞いた。

「テニス部の練習でね。」

「テニスはしないの?」

「ははっ!大木さん面白いこと言うね!この様子じゃ、テニスなんてできないよ。」

「ああ、そっか。そうだよねー。」

私は再び視線を外に戻した。

グラウンドも綺麗に雪が引き詰められていた。

「大木さんもやるかい?」

「雪合戦?」

「そう。」

テニス部と雪合戦。

普通の子が聞いたら二つ返事をしそうな内容だが…。

「体力の時点で負けそう…。」

「それもそうだね。」

「私は雪だるま作りで十分かな。」

「大木さんらしいよ。」

「ありがとう。」

雪合戦をしたら間違えなく楽しいと思う。

多分、佐伯くんが1番強いし、黒羽くんは間違えなく天根くんを狙うだろう。

葵くんはたくさん雪玉を作って抱えきれなさそうだし、樹くんは雪溶かしちゃったり?

そう考えると本当に楽しそうで、ちょっと見てみたい気もする。

「それにしても冷えるね。」

佐伯くんは窓に背をつけて、教室内を見ていた。

私も同じように、窓を背にした。

「教室の中なのに指が冷たいよ。」

私は掌をすり合わせて「ほら、曲がらない!」と掌を佐伯くんに突き出し、指の関節を軽く曲げて見せた。

すると佐伯くんは「あはは!指先まで真っ赤だね。」と笑っていた。

その後、佐伯くんは私の手を無言で包んだ。

「わー佐伯くんあったかい!!」

佐伯くんの手はカイロのように暖かい。

血の気が引いていた手に血が戻ってくるように感じた。

「大木さんは冷え症?」

佐伯くんは手を包んだまま聞いてきた。

「なのかな?普段も冷たいんだよね。」

「じゃあ、大木さんが冷たい時は今みたいに、温めてあげるよ。」

佐伯くんは微笑みながら私の返答に答えた。

「えっ…。」

『佐伯くん何言ってるの?』と言おうとしたが、言葉が出なかった。
佐伯くんはたまに何を考えているか、いまいち読めない。

「さて、そろそろ剣太郎が来る頃かなー。」

佐伯くんはそう言うと、私の手を離し前を向いた。

すると、葵くんが「サエさーん!」と呼ぶ声が聞こえた。

すると佐伯くんは葵くんが呼ぶ方へ歩いて行った。

私はただ、佐伯くんの後姿を目で追うことしかできなかった。

握られていた手は、熱を帯びていた。

それは佐伯くんが握っていたからなのか、佐伯くんが言った謎の言葉のせいかはわからない。

ただ、佐伯くんのお陰で手が温まったことは事実である。


「ねぇ!サエさん!雪合戦しよう!」

「はっはー!やっぱ剣太郎だなー。」

「やっぱってなんだよサエさん!」

「剣太郎がそう言うと思って、手袋持ってきたよ。」

「わー!さすがサエさん!!」

教室の入り口からはそんな会話が聞こえ、今日のテニス部の練習は雪合戦とわかった。


2014.2.9

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