苦い=甘い[高校生/同じクラス]

もうすぐバレンタインがくる。

雑誌のバレンタイン記事を見ながら、もうそんな時期が来たのかと1年が早く感じた。

苦い=甘い


もうすぐ乙女の大切な日、バレンタインが来る。

中学生の頃は、私だって好きな人に手作りチョコレートを渡したものだが、もうそんなことはしない。

「甘いものって、女の子が好きなだけで男ってそこまで好きじゃないんだよね。」

そんな一言を言われたことがあった。

それも好きな人に。

それから、私は甘いものは食べないようになってしまった。

甘いものを見ると嫌でも思い出してしまうフレーズとアイツの顔。

この時期になると、どの雑誌もページの真ん中辺りには、バレンタインのためのページが設けられる。

私が買うファッション誌も例外ではなく、ドルチェのお店やチョコレートのお店、カップケーキの作り方などバレンタインの特集記事がたくさん載っていた。

私はそんなページにうんざりして、視線を遠くに向けていた。

「おーい!」

目の前で赤髪の男の子が手を振っていた。

きっと、ブン太だ。いや、間違えなく前の席の丸井ブン太だ。

「ブン太、手が目の前ちょろちょろしてうざい。」

私は、目の前で振られる手に苛立ちを覚えた。

「なんだ、起きてんじゃん。」

ブン太からはグリーンアップルの匂いがした。

「目を開けて寝る奴がどこにいんのよ。」

「真田とか?」

「確かに。なんか想像出来る。」

「嘘だよい。あとで、大木が言ってたって言ってやるかんな!」

「私まだ鉄拳うけたくないんだけど…。」

ブン太と同じクラスになったのは今年が初めてで、ブン太の人懐っこい性格のお陰ですぐ仲良く慣れた。

それと同時に、テニスをしている彼にうっかり惚れてしまった。

いつもとは違う、真剣にテニスをする姿は誰よりもかっこよかった。

でも、この思いは別に伝わらなくてもいい。

今の関係を崩したくないのが1番強い思いだ。

私は、目の前の雑誌を閉じようとした。

そしたら、ブン太の手が伸びてきて、「ちょっと待った!!」と止められた。

「なに?」

ブン太は、雑誌の1番上に書いてあるケーキ屋を指差しながら言った。

「ここのケーキすげーうまいんだぜ!」

ブン太は今日1番であろう笑顔で言った。

「ちなみに、俺のオススメはチョコレートケーキな!」とガムを膨らませて答えていた。

「そうなんだ。」

「なんか、大木興味なさそうだな。」

ブン太は先ほど膨らませたガムを割って、口の中に再び含んだ。

「興味ないわけじゃないけど…。」

「けど?」

「苦いかな。」

私がそう言うとブン太は顔を渋らせた。

「はあ?ケーキは甘いだろい?」

「苦いんだよ。私には。」

ブン太にはきっとわからない。

甘いものが苦く感じる気持ち。

出来ればわかって欲しくもない。


「苦い思い出ということか。」


急に頭の上から低い声が聞こえた。

「?!」

私は、その声の持ち主の方に振り返った。

「図星という顔をしているな。」

そこには柳くんがいた。

「おい、なんだよ柳。」

「ああ、すまないブン太。悪いがこのオーダー表を仁王に渡しておいてくれ。」

柳くんはブン太に2枚のオーダー表を出し、「1枚はお前のだ。」と言った。

「えーそんなn「手渡しでだ。」わかった…。」

ブン太は柳くんから紙を受け取ると、再びガムを膨らませた。

「すまない、頼んだ。」

柳くんはブン太に紙を渡すと、教室から出て行った。

「柳くん苦手だなー。」

「うん?」

「隠し事とか出来なさそうじゃない?」

「まあ、そりゃ言えてるぜ。」

ブン太はガムを噛んだり、膨らませたりしていた。

「で、さ、よければだけど、苦い思い出って…」

ブン太には知って欲しくない。

「ああ。忘れてよ。」

私は、雑誌を畳んで鞄に入れた。

「わりい。」

そう言いバツが悪そうに前を向いた。

私は次の授業の準備をした。

「あのさ、」

前を向いたままのブン太から声が聞こえた。

「甘いもの…俺は好きだかんな。」

なんだ、勘付いちゃったかな。

柳くんの馬鹿。

「そんなの知ってるよ。」と返した。



2014.2.9

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