鍵と鍵穴[大学生/再会]
気がつけば、私は大学に進学していて、中学のころ好きだった彼の面影だけを脳内に残して日々を過ごしていた。
鍵と
鍵穴クラスは1年生の時は違ったけど、2,3年生の時は同じクラスになれた。
特に一緒になにかやり遂げた訳でもなく、ただのクラスメイトであった。
きっと彼からしたら、記憶の片隅にもない存在だろう。
彼は見た目に文句の付けようがなく、そして性格もしっかりしていて、テニスでは部長をやり全国まで行った。
彼を一言で言うなら「完璧」の人だった。
そんな彼を私はただ見つめているだけで、それだけで満足だった。
成績の良い彼は頭の良い学校に進学し、私は彼とは別の学校に進学した。
高校は女子高であったためか、男の子の話は耐えなかった。
A高のMくんがかっこいいだとか、B高のEくんが可愛いだとか。
私は別にそれを聞き流すだけで、その度になんとなく彼のことを思い出しては脳内から消していた。
無事高校を卒業をし、大学に進学した。
早朝の電車は混んでいて、高校時代にも味わっていたが、高校生と比べれば体力もなくなるわけで、辛くてたまらなかった。
特に冬は電車内の温度と外気温の差が激しく、風邪を引いてしまうのではないかと思うぐらいであった。
大学に着くと、1限の講義が休講になっていた。
どうやら、インフルエンザにかかってしまったらしい。それも、他の学部の先生にもなってしまった先生がいるらしい。
休校になったことにより、そこの時間にぽっかりと穴が空いてしまった。
友人に近くに出来たカフェに誘われたが、私はやり残していたレポートを図書館で仕上げることを心に決め、それを伝え断った。
学校の図書館は、市の図書館とは比にならないぐらいでかい。
私は、4館にある図書館に向かった。
中にはいると、机を使っているのは3人程度であり、本をたくさん広げて机を使いたい私にとっては、最高な状況である。
私は必要になる本を5冊抱え、机に向かった。
必要になる部分を探し、本を広げていく。
筆記用具を置いて書き始める。
つらつらと本に書いてある内容を見るだけで、寝てしまいそうになったが、頑張って脳を起こし書いていた。
レポート用紙の3枚目の半分がすぎた時、目の前に本を持った男の人が座った。
私は、知らないふりをして書き続けた。
「他にも使っていない机は沢山あるのに。」と思いつつ手を進めた。
3枚目が1番最後にいったところで、1回大きく伸びをした。
すると、背中の骨がポキポキいったのが聞こえた。
「ふう」と声を漏らし、前を見ると何処かで見覚えのある顔がそこにあった。
ミルクティー色の綺麗な髪。
整った顔。
私は、記憶の奥底にあった彼の中学時代の顔を思い出した。
そして、かすかに重なった。
「し、白石くん…?」
決して自信があったわけではない。気がついたら、口が先に動いていた。
すると目の前の男の人は、本を閉じ顔をあげた。
「やっぱりそうや。大木さんやろ?」
思いもしなかった。
彼の口から私の名前が出てきた。
中学生の時より大人びた顔つきになっていて、更にかっこよくなっていた。
白石くんは、微笑みながら私を見ていた。
「なんとなくそう思ってたんやけど、なんや確信持てんくてな。」と言い「綺麗になりすぎやで、自分。」と言った。
「いやいや!白石くんもやで!中学生の時しか知らんさかい、ガン見してしもうたわ。」
「なんや、お互い様やな。」
白石くんは笑って答えた。
「にしても、白石くんなんで此処におるん?」
なんで、彼は此処にいるのだろう。
いや、もちろんここの学生ではあるんだろうが…。
「俺、ここの薬学部やねん。せやけど、教授がインフルエンザかかってしもたらしく1限休講やねん。」
「あー!一緒!うちの学部の教授もやで!」
「なんや一緒やな!あ、よければやけど、移動せえへん?もちろん、大木さんのレポート終わってからでええけど。」
そう言い、白石くんは私のレポートを指した。
私のレポートはあとは感想のみであり、実質本を使う部分はもうなかった。
「あ、じゃああともう少しええ?本はもうええねんけど、あとちょっとやから。」
「ええで。なら俺、この本返してくるわ。」
「いいよ!いいよ!」
「ええて。こんくらいさせてや。」と笑顔で本を持っていった。
私はその間に感想を必要に書いた。
白石くんが本を置いてきてくれて、席に戻ってきて「ありがとう。」と伝えると「どういたしまして。」と笑顔で返ってきた。
再び白石くんが席に着き、私は必死に感想を書いた。
しばらくして、書き終え「お待たせ!」と言いながら荷物を急いで鞄に片付けた。
白石くんは「そんな急がんくても俺は逃げへんから。」と笑って言った。
正直、こんなところで彼と再開出来るとは思ってもみなかった。
というか、もう二度と会わないのではないかと思っていた。
ただ、私の中で忘れられない人物なだけで、彼からしたらただのクラスメイトで終わるようなそんな位置であったはず。
2人で図書館を出て、構内のカフェに向かった。
「大木さん何にする?」
「私は、ホットミルクティーかな?」
「ほんなら俺もそれで。」と白石くんはホットミルクティーを2つ頼み、プレートに乗ったホットミルクティーを運んでくれた。
「あ、てか、白石くんお金!」
「ええわ。俺の奢りや。」
「えっ、でも…」
「誘ったのは俺やから、ここは奢らな。君は素直に「ありがとう。」だけ言えばええんやで。」と、テーブルにプレートを置いて、ミルクティーをくれた。
「あ、ありがとう。」
私と白石くんは椅子に座りミルクティーを飲んだ。
程よい牛乳の甘味が心地よい。
「それにしてもほんま驚いたわ。」
口を先に開いたのは、白石くんだった。
「まさか、大木さんにまた会えるとは思ってもみんかったわ。」
「いや、うん私もや。にしても、ようわかったなー!」
すると白石くんは、笑みを浮かべ「なんでやろなー。」と答えた。
「なんや、オーラが大木冥子は此処に居るで!言っとったわ。」
「なんやそれ!白石くん面白いこと言うね!」
私は思わず笑ってしまった。
「変わらへんな。」
そう言い白石くんが微笑んだ。
「え?」
「その笑顔変わらへんなって思て。」
私は記憶を手繰り寄せた。
白石くんと2人でなにかやった思い出は出てこなかった。
クラス単位で一緒にスポーツ大会とか文化祭をやった思い出はあっても、白石くんとなにかをやり遂げた思い出はない。
「どないしたん?」
「えっ…うん…。」
何度思い返して見ても、白石くんと接した覚えはない。
テニス部を見に行ってもいつも1番後ろの列でチラっと、見て満足していた。
「俺のこと実はあんまり覚えてへんとか?」
そう言うと白石くんは少し悲しそうな顔をした。
「ちゃうちゃう!めっちゃ覚えてるで!2年間も同じクラスやったし!」
「ほんならよかったわ。」
「覚えてるんやけど…。」
私は困っていた。
本当に思い出せない。
2年間同じクラスだったが、思い出せるのは業務的な会話のみ。
そして、白石くんの面影。
「なんや…あんま話した記憶はないなーって思ってな。」
そう素直に言った。
いくら頭の中を駆け巡っても何も出てこない。
すると、白石くんは少し微笑んだ。
「大木さんは手強いわー。」
「えっなに?!」
白石くんの眼は私を捉えて言った。
「俺は中学3年間めっちゃ見てたんやけどな。」
私は目を離せなかった。
その瞳から目を離してはいけない気がした。
「えっ…。」
震えるような声なのが自分でもわかった。
「3年間って…えっなんで?」
私が白石くんを知ったのは、確かに1年生の夏。
友達が「テニス部を見に行きたい!」と言ったから着いて行ったのがそもそもの始まりだ。
あの時、白石くんは1年生でありながらもコートに入って、先輩と試合していたのをよく覚えている。
でもこれは悪魔でも私が白石くんを知った時期の話である。
「きっと、大木さんは覚えてないやろうけど…。」
白石くんは手元にあったミルクティーを飲んだ。
「俺、放送室がわからへんくてそん時に大木さんに助けてもらったんやけど。」
私は目を丸くした。
遥か昔の記憶を必死に辿った。
ああ!思い出した!
「おお!思い出してくれたんか?」
白石くんは嬉しそうにしていた。
「うん!えっあれ白石くんだったんだ!」
そう。確か、男の子が職員室の前で、構内の地図を見ていて困っていた。
だから声をかけたら「放送室なんやけど。」と返され教えた覚えがある。
「私、全然顔見てなかったわ。」
「俺はめっちゃ見とったけどな。」
白石くんは私に微笑みかけたあと、時計を見て「さ、そろそろ行かな。」といい、席を立った。
私はその行動をただ見ることしか出来なくて、パンクしている頭を整理していた。
白石くんが私を見てた…?
いやいや、そんな馬鹿な。
「ほな、また!」といい、白石くんが机にメモを置き、私に渡した。
「ちゃんとメモ見るんやで。」
「えっあっうん!」
そう私が言うと、白石くんは手を振って歩いて行った。
私は机に置かれたメモ帳の中身を見た。
そこには綺麗な字で電話番号とアドレスが書いてあり、その下には「メール待っとるから。」と書いてあった。
私は夢か現実なのかわけがわからなくなっていた。
鍵をかけていた中学時代の思い出が開いた日。
そして、気がつけば彼との未来。
2014.2.6
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