宿への帰還(15/22)


モヒカン男との戦いを終えた後、私は巧断の鎖を回収していく。
お店の人と連携しながら、下手に崩れてしまわないようにゆっくりと。駆けつけた業者さんの巧断と協力しながら、素早く修理が行われる。その光景を見て、こんな使い方ができる巧断もあるのだと感心した。本当に生活と密接しているんだな、巧断って。

「おう、お疲れ様さん、お嬢ちゃん。助かったよー」
「いえいえ、どういたしましてー」
「疲れたろう、今日はゆっくり休むんだよ」

なんて、言葉をかけてくれながらお店の人も、業者さんも帰っていった。さてさて、私も帰ろうか、なんて何事もなかったように振る舞って呑気に思っていれば。がっしりと、頭を掴まれ、左腕をやんわり捕らえられる。"右腕"を避けているところに、彼らの観察眼の恐ろしさをひしひしと味わっていた。そして、真正面に立つ小狼さんの視線は私の右腕に固定されているときた。

「あはは、八方塞がりですかねえ」
「はーい、黒りんも、立花ちゃんも、一旦帰ろうねー」
「……ちっ」
「……はぁい」
「立花さん、おれ、鞄を持ちましょうか?」
「大丈夫でーす」

なんという包囲網。これは逃げられないな。
こうして、私と黒鋼さんは、残りのメンバーから丁重に怪我人扱いを受けながら空ちゃん達の待つ下宿屋へと帰還することになった。


***

「そうか、羽根の気配はしたけど、消えてしもうたか」

下宿屋へ戻ると、私達は空ちゃんへ出かけ先での収穫を報告する。空ちゃんが夫婦漫才でたんこぶを拵えるくらい、もう見慣れたもので。皆さん、平気な顔で話を再開するまでに至っていた。反応してくれるのはモコナさんくらいだろうか。
帰ってすぐ、私は右腕を簡単に冷やしてから皆の下で話を聞くことになった。戦闘直後は痛かっただけで、帰るまでに痛みが引いたからである。黒鋼さんに至っては、本人としては大した怪我じゃなかったらしく、放置してしまっている。怪我慣れした大人って怖い。

「で、ピンチの時に小狼の中から炎の獣みたいなんが現れたと」
「はい」
「やっぱりアレって小狼君の巧断なのかなー」
「おう、それもかなりの大物やぞ。黒鋼に憑いとるんもな」
「何故分かる?」
「あのな、わいが歴史に興味持ったんは、巧断がきっかけなんや」

空ちゃんがどうして歴史に興味を持ったのか、語られた理由は私としても深く興味をそそられる内容だった。巧断の正体はこの国の神様ではないかという仮説。
八百万の神々の概念は、私も学んだことがある。その神を身におろして、私達は生活をしているのだ。

「その神話の神が今、巧断と呼ばれるものだと!」
「神様と共存してるんだー、すごいねぇ」
「この国の神は、この国の人々を一人ずつ守ってるんですね」
「小狼もそう思うか!!」
「うおう…!?」

ずずいと乗り出してきた現役歴史教師空ちゃんと、現役遺跡探検家小狼さんは熱い眼差しで巧断と国について話し合っている。こうしてみれば空ちゃんはこの国、小狼さんは歴史の、それぞれの造詣の深さに目を見張るものがあった。
なんて、言いつつ二人の熱量についていけなくなってしまっている自分もいて、フラフラとサクラ姫の眠る布団の方へ近づいていく。
相変わらず、眠ったままのサクラ姫。記憶の中では活発な印象が強かったから、じっと動かないで眠っている姿が痛ましい。じっとサクラ姫を見つめる私を見て、嵐さんは何を思ったのか目を細めていた。目があって、首を傾げると意味深に逸らされてしまう。謎だ。

「……羽根の波動を感知したのに、分からなくなったと言っていましたよね」
「うん」
「その場にあったり誰かが只持っているだけなら、一度感じたものを辿れないということはないでしょう。現れたり消えたりするものに取り込まれているのでは?」
「巧断ですか!?」

嵐さんの提案は辻褄が合うし、間違いないだろう。私達の間でも、その考えに異を唱える人はいない。では羽根はどこにあるのか。
サクラ姫の羽根の力は強い心の結晶だ。あれを心で動かす巧断に宿すなら、相対的に巧断も強い力を有しており、それを扱える人の巧断が持っているのだと。それが空ちゃん達の見解だった。

「とりあえず強い巧断が憑いている相手を探すのがサクラちゃんの羽根への近道かなぁ」
「モコナもがんばるー」
「私も頑張ります!」
「よし!そうと決まったら、とりあえず腹ごしらえと行こか!黒鋼とファイと立花ちゃんは手伝い頼むで」
「はーい了解です!…いってきます、サクラ姫」

キッチンへ向かう前にもう一度だけ、眠るサクラ姫へ笑いかけて、今度こそ立ち上がり、空ちゃん達の後を追った。楽しみだな、空ちゃんの肉うどんといなり寿司。


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