思い入れの謎(16/22)


目標を新たに、町を歩いてみるものの、羽根の持ち主はすぐに見つかるわけではなかった。土地勘のない私達では町を歩くにも難儀する。せめて、強そうな人が集まる場所でも分かっていてばよかったのに。

「みんなやっぱり巧断出して歩いてないみたいだねぇ」
「それにもし、どの巧断が羽根を取り込んでいるのか分かっても、そう簡単に渡してくれんのか」
「私だったら即返却でしたけど、そんなうまくいきませんよねえ」
「そういえば、立花さんは出会った頃からさくらへ親切にしてくれてますよね。昨日の夜といい」
「あー、そうだったねー」

小狼さん、鋭い。別に隠すことでもないんだけど、客観的に見たら私って結構ヤバい人じゃないですか?会ったことのない女の子を見た記憶があって、その記憶を頼りにサクラ姫に勝手に愛着持ってる、って。知られて引かない?大丈夫?話さないほうがいいんじゃないの?

「立花さん?」
「んー、んー、実は………」

駄目だ。サクラ姫関連において小狼さんの真剣な眼差しから逃れることなんて、私にはできない!白旗!私は自分が覚えている範囲の内容を彼へ話すことにした。


***

「出会ったことのないさくらの姿が、記憶の中にある?」
「………です。あはは、気持ち悪いですよねえ」

こうして、私は洗いざらい吐かされました。
子供の頃に見た、夢みたいな記憶のことを。せめてもの救いはドン引きしたり、馬鹿にしたりする人がいなかったことだ。皆さん、魔術師とか神官とか夢見とか、そういうミラクル業界人と関わりがあるからか、受け入れてくれるのも早いんだろう。
これから私への尋問タイムが始まるのかもしれない。小狼さん、お手柔らかに頼みます。そう覚悟を決めたのに、トップバッターはファイさん選手だった。

「それって夢で見たんじゃない?異世界のことを知る方法なんてあまりないからさー」
「まあ、会ったこともねえやつを知るっつったら、夢の中ぐれぇなもんか?」
「……はい、確かに、私、ずっと夢だと思ってましたね。でも、どうなんでしょう…今の私にそんな力はなくてですね。あの時期、私の力ってちょっと不安定だったって聞いたことがあって」
「あー、なるほど、心が安定していないちっちゃな子は力がコントロールできないとか、そういう時期ってことかな」

途中から黒鋼さん選手が尋問に加わった。魔術師業界でもそういうことはあるんだろうか。どちらにせよ、年齢は関係なしに感情のコントロールができずに能力が安定しないというのはよくある話だとファイさんは頷いている。
私はこの際、正直に全てを話すことを決めた。偶然夢で異世界の光景を覗き見ることができたのかもしれないし。不審なことだらけなのは自分でも分かっている。この際疑われることは怖くない。

「……ただ小さい頃から、訳も分からず、ずーっとサクラ姫のことが大好きなんです。憧れてて。私の想像の中のお姫様なのかと思ってたから、こうして会えて嬉しくて」

でも。サクラ姫に憧れてきた自分を否定されることが、一番怖かったんだ。大好きな人を好きな気持ちを疑われたくはなかった。

「……………。立花さん」
「ひゃい!」
「話してくれてありがとうございました」

何を言われるかと思いきや、お礼ときた。しかも、綺麗なお辞儀つき。カンペキなお辞儀だ。頭を下げた小狼さんの表情は伺えないけれど、そこに疑いなんかは含まれていないってことだけは分かる。
…最初は少しだけ、疑われていたみたいだったから、それが抜けてくれて有り難い。小狼さんみたいないい人に疑われるのは辛いから。

「さくらのことを、大切に思ってくれて…そんな人と一緒に旅をすることができて、おれは心強いです。立花さんのこと、本当は少しだけ疑ってしまっていたんです。ですが、今話してみて、嘘はないとおれは思ったので」

やっぱり、そうだったのかと思わなくもなかった。けれど、それを話してくれることが小狼さんなりの誠意だと分かっている、だからこそ、受け入れられた。嬉しさが込み上げる。小狼さんを抱きしめたい衝動にかられた。握手に留めておきましたけどね!

「小狼さーーん!!!一緒にサクラ姫をお守りしましょうね!!!」
「はい…!!」

それはここ最近聞いた中で一番元気よく清々しい小狼さんの"はい"だった。私達はこの時、サクラ姫を通じて友情を確かめあえた気がする。なんと素晴らしき同志!小狼さんとサクラ姫がまた話せる日が来ることを心から祈るようにした。モコナ大明神に。

「結局のところ、立花ちゃんはさくらちゃんを夢で見ていたのか、それとも本当は出会っていたのかなあ。さくらちゃん側の意見も聞いてみたいけど、記憶のこともあるし、分からないままだねー」
「そうなりますねえ、色々話したんですけど、私のちっちゃい頃って今より記憶が鶏頭だったから、もうさーっぱりなんです!」
「威張んな。その調子ならガキの頃と今とそう大差あるかよ」
「えー、そうかなー?ちっちゃい頃の立花ちゃん、可愛かったんだろうなー」
「モコナも見てみたかったなー、ちっちゃい頃のかわいい立花!」
「はい、それはもう!」
「自分で言うのかよ!!」

最終的に私の記憶の謎は分からないままだったけれど、小狼さんや他の人達へ隠し事がなくなったというだけで、とてもスッキリしていた。どう思われてもいい、私にとってはそれが真実だ。せめて、疑われなくてもいいような振る舞いをしていけばいいのだから。



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