同じだけど違う人(12/22)

店員さん達の姿が見えなくなるまで見送った後、ファイさんが小狼さんへ疑問を投げかける。ところでファイさんきちんと座りましょう、お行儀悪いですよ。黒鋼さんも店員さんに叱られたことを、モコナさんにからかわれている。なんだか大人なのに面白い人達だ。

「王様って前いた国の?」
「はい…」
「で、隣の人が神官様かー。次元の魔女が言ってたとおりだねぇ」
「なら、あの2人はガキの国の王と神官と同じってことか」
「同じだけど、同じじゃないかなぁ、小狼君の国にいた二人とはまったく別の人生をここで歩んでいるんだから」

同じ顔をしている別人が、全く違う人生を歩んでいると、魔女さんは言っていた。私の知る空汰さんと嵐さんが、この国の空ちゃんと嵐さんと全く違う人生を歩んでいるように。あの店員さん達だって、どう見たって王様と神官様には見えないし、そもそもこの国は王制ではないはずだから。

「でも言うなれば"根元"は同じ、かな」
「根元?」
「命のおおもとー、性質とかー、心とかー」
「"魂"ってことか」
「本当に、別人なんですね……」
「だったらあの下宿屋の二人も、おまえの知り合いと同じ顔した別人か」
「…!……あれまあ、お見通しでしたか……」
「てめぇ、人の背中であれだけ騒いでバレてねぇと思ってたのかよ」

ど正論な黒鋼さんの鋭い指摘に、箸を持つ手に力がこもる。見抜かれないと高をくくっていたわけではないけれど、こうして直球を投げてくるとは思ってもみなかった。てっきりお好み焼きに夢中で、こちらの話なんて興味ないのかと。これは半分冗談だけど。

「あー、やっぱりそうだったんだー?空汰さんと嵐さん」
「はい、私の知る"あの二人"は、空ちゃん達と同じように、きっと好き合っていて。けれど、空ちゃん達より大人じゃなかったから、周りはヤキモキしてましたねえ」
「二人共、どこの世界でもらぶらぶなんだー」
「もっちろん!らぶらぶですよ!お互いに思いを告げていなかっただけで、傍から見れば両思い間違いなしです!」
「きゃー!」

だって、空汰さんは嵐さんを守るために大怪我を負ったんだから。
それだけ空汰さんにとって、嵐さんは守りたい人だってこと。
でも、これは言わなくてもいい話だから、私の胸にそっとしまい込んで、お好み焼きと一緒に飲み込んだ。"彼ら"にまた会いたいという気持ちが這い出してしまう前に食べることに集中したかった。話を終えると皆さんも、お好み焼きをそれぞれ食べ始めて、モコナさんと黒鋼さんは何故か奪い合いを始めていて。この世界で初めての外食は、とても楽しいものになった。


***

食後に再開することになった町の探索では、心強いナビゲーターである現地人の正義さんを仲間に加えることができた。家に連絡しに行くところが学生らしくてなんだか微笑ましい。私も、遅くなる時はああして連絡していたっけ。一番便利な位置にある公衆電話を探すの、結構楽しかったな。
待ち時間を持て余していた私は、黒鋼さんと一緒にそこで出会った小さな女の子と玩具のコーナーを眺めている。町を見ていた時は広大過ぎて気づけなかったが、私のいた日本よりもかなり技術が発展した世界のようだ。

「そう言えば、話が途中になっちゃったね。夢を見たんだって?」
「はい。さっき出て来たあの炎の獣の夢です」
「あっ、私もです!獣っていうか、よく分かんないですけど…」
「妙な獣の夢なら俺も見たぞ」
「オレもみたなー、なんか話しかけられたよー」

迷子のお子さんだろうか。ほんわかした顔立ちがやけに可愛い。その子を手遊びに興じていたり、紙人形を見せたりして、遊んでいると何やら無粋な声が私達の会話に割り込んでくる声がした。


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