巧断とは(11/22)

ゴーグルの人、もとい浅黄さんに会ってから、なんだか踏んだり蹴ったりである。サクラ姫の羽根の接近チャンスを見逃すし、町は壊れるし、男の子、正義さんは危ない目に遭うし。
でも、小狼さんが巧断を使いこなせたことや正義さんが無事だったこと、そして美味しいご飯が食べられたことは幸運だったように思える。
正義さんのおかげで、阪神共和国の情報をより詳しく教えてもらえることも、有り難い話だ。

「これって……」
「僕ここのお好み焼きが、一番好きだから!」
「"お好み焼き"っていうんだこれー」
「………」
「え?お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは…外国から来たんですか?」
「んー外といえば外かなぁ」
「そうなんですよー、私達、阪神共和国の外での暮らしが長くって!」

そして。私達は今、正義さんに連れられて昼食の席にいる。
お好み焼きが主食なんて、本当に徹底して関西仕様だ。阪神共和国だとか、主食が小麦粉だとか、言われていた時点で気づくべきだったのかもしれない。鉄板に焼き付くソースの香りが食欲を沸き立たせていた。
ここまで本格的なお好み焼き屋に入ったことはなかったから、私も新鮮だけど、ファイさんや…意外だけど黒鋼さんほどの興味を示すまでには至らない。寧ろ、際どいファイさんの発言のフォローのために小狼さんと冷や汗をかいていた。

「ところでいつも、あの人達はあそこで暴れたりするのー?」
「あれはナワバリ争いなんです。チームを組んで自分達の巧断の強さを競ってるんです」
「で、強い方が場所の権利を得ると」
「でもあんな人が多い場所で戦ったら、他の人に迷惑が……」
「本当ですよ!建物だって壊れてて…直せもしないものを壊すのはアウトです!」
「そうだねぇ、現に正義君が危なかったもんねぇ」
「あれは僕が鈍くさいだけです!」

うーん。正義さんが気にしないなら、私が必要以上に気にすることもないんだろう。カリカリしていてもいいことはないし、それに、こんなにも浅黄さんに憧れている正義さんに水を差す必要だってないんだ。浅黄さんのこと、浅黄さん達のチームのことを熱く語る正義さんを見ていると、彼へ抱いたそわそわした気持ちも次第に和らいでくる。
彼の話を聞いているうちに、話題は私達にも深く関わる内容へとシフトしていった。

「巧断の"等級"、ですか?」
「はい。四級が一番下で、三級、二級、一級と上がっていって、一番上が特級。巧断の等級付けはずっと昔に国によって廃止されてるんですけど、やっぱり今も一般の人達は使ってます」
「じゃあ、あのリーダーの巧断ってすごい強いんだー」
「はい!小狼君もそうです」
「確かにほとんど互角で渡り合ってましたもんねえ、二人共」
「強い巧断、特に特級は本当に心が強い人にしか憑かないんです。巧断は心で操るもの。強い巧断を自由自在に操れるのは、強い証拠だから…憧れます」

僕のは一番下の四級だから。俯く正義さんの声は小さくて、隣の小狼くんと私にやっと届いたかどうか、というくらいだっただろう。心の強さなんて、肉体的な強さとも違って、目に見えないしそう簡単に磨くことはできない。だから、正義さんはこうして葛藤しているんだ。
そんな正義さんのことが他人事ではなくて、私も昨夜の夢を思い出す。

―― 鎖が開放されたそのとき われはそなたに真の力を授けよう

そう言って、鎖をまとったままだった"翼"。もし、あれが私の巧断だったとしたら。そうだとしたら、私の巧断は一体、何級なんだろう。私の力は、皆さんと並び立てるだけの威力があるのだろうか。正義さんと並んで俯き気味になった私は完全に油断してしまっていた。
正義さんの隣、小狼さんの反対側。つまり、通路側の席に座っていた私の耳、その声はダイレクトに突き刺さったのだ。

「待ったーーーー!!!」
「ひゃーーー!?!?」
「わっ、お客さま、驚かせてしまって申し訳ございません!ほら、桃矢も」
「申し訳ございません」
「王様!?と、神官様!?」
「えっ、王様なんですか!?こちらこそ、失礼致しました?!」
「いえ、誰かと間違っていませんか?俺はオウサマなんて名前じゃないですけど」

一緒にいた黒髪の店員さんが叫んだことへ謝罪する銀髪の店員さんと、妙な勘違いをした私が互いにぺこぺこお辞儀をするという謎の空間が一時的にできあがる。
王様、と呼ばれた店員さんは勘違いを訂正すると、お好み焼きの焼き方を指示して、去っていった。黒鋼さんがやけに素直な態度で従っている姿が、これまた笑いを誘う。あの動じなさと、キビキビした動きをしているところを見るに、あれはバイト慣れしたバイト戦士だな。


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