最初の夜(6/22)

サクラ姫の羽根が争いの理由になり、その争いのために使える術がこの国にあるという収穫を得たけれど、問題はその羽根がこの国にあるかどうかが問題である。空ちゃんが聞いてくれると、モコナさんは静かに、確信めいた口調で答えてくれた。

「で、どうや?この世界にサクラちゃんの羽根はありそうか?」
「……ある。まだずっと遠いけどこの国にある」

その言葉に小狼さんはどれだけ安堵したことだろう。表情からもそれが伺える。これから暫く続く、羽根を探す旅が出鼻を挫かれずに済んだのだということが喜ばしい。

「探すか、その羽根を」
「はい!」
「兄ちゃんらも同じ意見か?」
「とりあえずー」
「勿論です!」
「移動したいって言やするのかよ、その白いのは」
「しない。モコナ、羽根が見つかるまでここにいる」
「ふふふー!モコナさん、流石です!」
「きゃー、立花に褒められちゃったー」
「ありがとう、モコナ」
「ありがとうございます!モコナさん!」

小狼さんも決意を新たに、空ちゃんに宣言する。そして、私達も。
最初はどうなることかと思ったけれど、案外悪いことにはならなさそうだ。皆さん、優しい方ばかりのようだし。それに、空ちゃんたちもいてくれる。

「よっしゃ!んじゃ、この世界におるうちはわいが面倒みたる!
 侑子さんには借りがあるさかいな……なー?」

仲睦まじく手を握りあう、空ちゃんと嵐さんに対するときめきがまた、ぶり返しそうになる。定期的にいちゃつかないでほしい。
私の心臓が持ちませんよ!幸せ供給過多です!
でも、本当にこの二人は幸せになれているのだと、ここにいる間はずっと頬が緩んでしまいそうだ。

「ここは下宿や、部屋はある。次の世界へ行くまでここに住んだらええ」
「ありがとうございます」
「もう夜の十二時過ぎとる。そろそろ寝んとな…部屋案内するで。おっと、黒鋼とファイは同室な」
「小狼さんはこの部屋を使ってください。サクラさんは…」
「側に、いたいです」
「分かりました。でも、少しでも眠らないといけませんよ」

小狼さんは、下手をすると一晩中サクラ姫を守っていそうなくらい、思いつめているから心配だ。本当は私もサクラ姫と一緒の部屋がよかったけれど、小狼さんだってサクラ姫と二人きりの方がいいだろう。
私はどうするべきか。ここは下宿屋だというのだから、空き部屋は多い方がいいに決まってる。だったら私が大人二人と一緒になった方が使う部屋数も減っていいはずだ。

「あの、小狼さんとサクラ姫は二人きりにさせてあげたいので、よかったら私と黒鋼さんやファイさんと一緒の部屋で雑魚寝でも!!」
「却下だ」
「ごめんねー、立花ちゃん。それはちょっとー」
「二人して即答ですか!!名案だと思ったのに!!」
「立花ー、モコナ、小狼と一緒に寝るのー」
「あっ、そうなんですか!?だったら、私は結局どうしたら…」
「まーまー、嬢ちゃん。兄ちゃんらも年頃なんやし、気い遣ってやり?
 それに使ってない部屋はまだあるし、わいらも部屋使ってくれる方が大助かりや」

わしわしと無遠慮な手で頭を撫でられるのが心地よい。元いた世界が懐かしくて、また、空汰さんが元気になって、こうしてくれたらいいのにという思いが深まるばかりだ。
そんなこんなで、気を遣われるの俺らの方かよ、と小声で呟く黒鋼さんの声をその時の私は聞き漏らしてしまっていた。

「……仕方ないですね!空ちゃん、…が、そう言うなら!」
「おおきに!いやあ、ええ子やなあ、立花ちゃんやっけ、これからよろしゅう!」

一通り撫でてもらった後、私は自分が使う部屋へと案内された。
私が駄々をこねたからか、他の部屋より少しだけこじんまりとして見える部屋に通される。空ちゃんたちの優しさに触れたような気がして、今度こそ我慢できずに、二人の前で満面の笑みを浮かべた。

「本当に、ありがとうございます!空ちゃん、嵐さん!」

あんまりにもほけほけと間抜けに笑ったものだから、二人共きょとんとして一拍置いたあと、どういたしましてと笑い返してくれた。
素敵な笑顔に見送られて、部屋へと入っていく。今日はいい夢が見られそうだ。


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