ゆめゆめ忘れるな(7/22)

その夜。眠りについた後、不思議な出来事が起こった。
"夢の中で目が覚めた"のだと、はっきりと知覚したことだ。
異界に連れ去られてしまったような、足元が固まっていないような。

いざ自分が放り込まれて見れば、これが"夢の中"の出来事だと理解できるできるのだと知った。夢見姫は毎夜こんな心地でいるのかと思うと、尊敬の念が深まるばかりだ。

暗い夢の中を自由に歩き回っていると、次第に薄ぼんやりと光り、輪郭が顕になっていく姿があった。
"それ"を表現するならば、半分だけになった翼。私は羽根と縁があるのだなあと、その姿を見つめた。呑気にしていられたのもそれまでで、よく見れば片翼の周囲を鎖が覆っている。なんだか動きづらそうで、気の毒だ。

―― われは守をつかさどるもの

『そういう割に自分の身は守れていなさそうなんですが、大丈夫ですか?』

頑張って鎖を外せないものか、引っ張ろうと手を伸ばせば、シャンと鎖が音をたてる。まるで拒まれているような、いや、窘められているような。

―― その鎖も守の一部 みだりにふれてはそなたの身も削れよう

『ふむ、"おれの体に触れると火傷するぜ!"ってやつですか。
 ……うそうそ!冗談!攻防一体ってことですよね、分かってます!』

―― そう 攻防一体の業
―― しかしわれの本分は守 そなたはわれの"力"を欲するか

『……欲しいです!
 守りはあなた達だけの専売特許じゃない!私だって、守りの力が本分です。私だって誰かを守れるんだって、証明したい!』

せっかく出会えた記憶の中のお姫様。彼女を私は守りたいんだ。
小狼さんのように、多くの時を共に過ごしたわけではないけれど。サクラ姫への思い入れだったら、私だって負けてないんだから。

―― その願い 聞き届けた
―― しかし ゆめゆめ忘れるな そなたの願いを縛るものを

また、それだ。
私の願いは、いつだってねじ曲がっているように語られる。願いを縛るとか、願いが中途半端だとか。あの時『×の龍』の『神×』さんにも、そう言われた。どうしてだろう。
夢でまで、そんなことを言われるなんて、悔しくて堪らない。
震えていると、また鎖が音をたてる。今度はどこか優しげで、宥めるような穏やかさをはらんでいた。

―― 臆するな 夢はそなたの味方である
―― われが鎖より開放されたそのとき そなたに真の力を授けよう
―― それまではできる限りのことを成そう

『なんだかフルパワーじゃないみたいに聞こえるんですけど……』

―― そなたの守ることに対する 強い思いは誰にも穢すことなどできぬ
―― 認めよう そなたはわれの力を振るうに相応しい

『認めてくれるのは、嬉しいですけど…なんだかなあ……』

手放しに褒められているわけではないからか、釈然としない。いい夢が見られると思ったのに、ちょっとだけ残念だ。
魘されないだけマシか、と諦めにも似た気持ちで私は夢の中で眠くなるという、これまた妙な体験をしつつ、夢からの目覚めを感じていた。


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※『×の龍』の『神×』:毎度おなじみ、夢主を殺しかけた敵の人。
※鎖に繋がれた片翼:カードキャプターさくらより。作中に登場するカード『盾(シールド)』がモデル。



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