ぷちらっきー虎の国(4/22)

「さて」

空汰さんは、場の空気を和ませるような明るい態度を一度収めて、真面目な顔を見せる。と思いきや、モコナさんと可愛いやり取りを見せてみたり、相変わらず楽しい人だった。流石空汰さん。異世界の人でもノリは全然変わっていないらしい。

「事情はそこの兄ちゃんらに聞いた。主にそっちの金髪のほうやけどな。黒いほうは愛想ないな、ほんま」
「うっせー」

うわ、黒鋼さん。本当に愛想がない。あの後、すぐ背中から追い出されてへばりつかれないように、壁にもたれかかってしまっている。意地でも隠れさせてくれないつもりだ。
こんな滑り出しで始まったのは、私たちが最初に訪れた異世界についての説明だった。空汰さんは誇らしげに窓を開き、高らかにこの国の名前を呼び上げる。

「ここは、阪神共和国やからな」

夜中であるにも関わらず、ネオンと虎の黄色が眩しく、食道楽と愉快なモニュメントに溢れた町並みがそこには広がっていた。
めちゃくちゃ、平和そう。


***

一通りの説明を聞いている限り、大阪が日本を染め上げてできた国、というのが第一印象だった。通貨が虎(ココ)という点だけ馴染みがなく、慣れるまでに時間がかかりそうだ。
聞けば聞くほど治安もよく、平和な国であるように思える。この国の裏でも、地球の命運をかけた争いが行われているなら話は別だけど。

「はーい、質問いいですか−?」
「はい、ファイ君!」

ところであのぴこぴこ動くパペットはどちらが作成したんだろう。二人によく似ているし、まさかの嵐さんまでつけているだなんて。私の知っているあの二人の間に、こんな穏やかな時間は少なかったように見える。微笑ましくもあり、そして、羨ましくもあった。

「この国の人達はみんな、空汰さんみたいなしゃべり方なんですか−?」

ファイさんの疑問に、首をかしげる。ファイさんは関西弁の概念がない世界から来た人なのだろうか。いや、そもそも空汰さん=関西弁、という印象があったから、私が違和感を抱いていなかっただけなのかもしれない。

「んな、水くさい!空ちゃんでええで。わいのしゃべり方は特別。これは古語やからな」
「この国で過去使われていた言葉なんですか?」

おっと、思わぬ小話に食いついたのは小狼さんだ。
歴史教師であるらしい空汰さん、もとい空ちゃんにも驚いたが、発掘作業に関わっていたのだという小狼さんにも驚きである。人の経歴は外見では分からないものだ。
空汰さんも、あのまま成長したら歴史教師になる未来もあるのかもしれない、と夢想する。その隣に嵐さんも私も、他の皆さんもいてくれたらいいな。

「もうひとつ質問でーす。ここはどこですかー?誰かの部屋ですかー?」
「ええ質問や!ここはわいとハニーがやってる下宿屋の空き部屋や」

うっとりと空ちゃんは彼女を引き寄せて、自慢を始める。これは長くなりそうだ。何か別の話を、と思い、ふと下宿部屋の他の住人の存在の有無が気にかかる。もし、空ちゃんたちの他にあの頃、生活を共にしていた面々の顔があるとしたら。

「……あの、この下宿って他に、」

他の仲間たちにも、会えるかもしれないと、おずおずと身を乗り出して。やっと空ちゃんと会話をする勇気が生まれて実行に移そうとした、その時だった。

「そこ!寝るなーー!」

隣に座っていた黒鋼さんの頭上へ、"何か"が降り注ぐ。
風使いの鎌鼬というには衝撃が軽く、気が発せられたにしては独特のねっとりとした圧を感じない。まるで空気砲を撃たれたような。

「なにぃ!?何の気配もなかったぞ!てめぇ、何か投げやがったのか!?」
「投げたのなら、あの角度からは当たらないでしょー?真上から衝撃あったみたいだし?」
「…風使いの襲撃にしては、音も軽快でした。今のは一体何だったのでしょう?……小狼さん、サクラ姫はご無事ですか?」
「あ、はい、大丈夫です!こちらには特に何も…」

袖口に隠し持っていた数珠と符を手に、膝を立てて警戒すれば、皆さんも同じように動揺している様子が見えた。無理もない。私よりも余程戦闘に慣れているように見えた黒鋼さんやファイさんでさえ、突如として現れた攻撃に警戒しているのだから。
一方で、詰問された空ちゃんはといえば、あっさりと攻撃の正体を明かしてくれた。

「何って、"くだん"使うたに決まってるやろ」


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