異なる未来を歩む人達(3/22)

嬉しそうに語る私の姿に、げんなりした黒鋼さん。感激したような小狼さんと、なんだか読めない雰囲気のファイさん。元々嬉しそうなモコナさん。皆さんに囲まれて、私は自分の願いを宣言する。

「それに、この出会いは必然なんでしょう?だったら、サクラ姫の力になろうって、思うじゃないですか…なんて!」
「……いつか騙されて泣かねぇようにするんだな」
「あはは、確かによく言われます!でも心配してくれる人がいるなら安心ですねえ」
「ふん、言ってろ」

黒鋼さんはそれ以降、そっぽ向いてしまった。思ったより寂しい。
だけど、そんな寂しさをぶち破るような音が響き渡る。部屋のドアが開け放たれたのだ。そういえばここって、どこだったっけ。ファイさんにでも訪ねようと口を開こうとした時、来訪者に遮られる。

「よう!目ぇ覚めたか!」
「……!」

それは強烈な出会いだった。ああ、知っている声だ。
有洙川空汰さんと鬼咒嵐さん。『×の×』であり『××の××』であるお二人だ。一緒に戦った人たち、大好きな二人の姿がそこにある。空汰さんが元気な姿で、"立って"いる。
飛び上がらないように自分を押さえつけたいが、どうしていいか分からない。第一、自分の知っている二人より、ずっと大人びていてドキドキしてしまう。
ふと目に入ったのは、黒鋼さんの肩によじ登るモコナの姿だ。それを見て、同じように黒鋼さんの背中にへばりついて、己を隠した。

「…!?小娘何しやがる!!」
「モコナさんずるいですよー!私も私も!わーい、黒鋼さんの背中っておおきーい!」
「きゃー、立花だいたーん」
「きゃー!」
「うるっせえぞ!てめーら!」
「黒ぽんの方が声おっきいよー」

サクラ姫のためにお世話をしてくれる嵐さんを置いて、騒いでいるのは申し訳ないけれど緊急事態だ。気持ちが落ち着くまで、黒鋼さんの背中にいさせてもらおうと思う。
なんだかんだ、この人は無理やり振り払うとはしないんだな。思いっきり抵抗はされても、本当に私を振り払おうとはしていない。やろうと思えば力づくでできるはずなのに。

「はー、嬢ちゃん、んな警戒せんでええって。大丈夫やで。自分ら、侑子さんとこから来たんやろ」
「ゆうこさんですか?」
「あの魔女の姉ちゃんのことや。次元の魔女とか極東の魔女とか呼ばれとるな」

嬢ちゃん、と呼ばれて少し冷静さが戻ってくる。彼は私をそんな風に呼んでいたのは随分前の話だ。私を知らない二人なのだと理解できる。理解はできるけれど、やっぱりまだ落ち着かない。私が内心慌てている間も、嵐さんはサクラ姫へ毛布を渡し、再び空汰さんと並び立っていた。
それにしても、あの人ゆうこさんというのか。魔女さんにも名前があるのか、と当たり前なことを考える。親近感のわいてくる名前だ。

「わいは有洙川空汰」
「嵐です」
「ちなみにわいの愛する奥さん、ハニーやからそこんとこ心に刻みまくっといてくれ」

今。
今とても聞き逃してはならないことを聞いた気がした。
それを確かめたいがために、その時だけ黒鋼さんの背中から顔を出して尋ねる。

「……、……有栖川嵐さん?」
「…。…はい、そうですが」
「ハニー、いっつも照れるんやなー、ほんとかわええなー」

ただいま、黒鋼さんの背中。こんにちは、有栖川嵐さん。
ハニー、奥さん。鬼咒嵐あらため有栖川嵐。
一旦落ち着いていた心がまた騒ぎ始める。なんだこれ、何でしょうこれは。こんな幸せな世界がこの世にあるのか。ビックバンだ。異世界って素晴らしい。
できることならあの二人も、こんな風に幸せになって、共にあれたらと。別の形でもいいから、二人に幸せが訪れてくれればいいのにと、黒鋼さんの背中にしがみついたまま、祈り続けた。

「つーわけでハニーに手ぇだしたらぶっ殺すでっ!」
「なんで俺だけに言うんだよ!」
「ノリやノリ。……でも、本気やぞ!」
「ださねぇっつの!!」

でも、ここまで嫁愛が激しいとなると、嵐さんは大変だな。
頑張ってください、嵐さん。


============================================

※『×の×』=『××の××』:夢主が共に戦っていた使命ある七人の仲間達。やはり呼び方の使い分けが難しい。

※夢主が、異世界に飛ばされたのはXの17巻後半頃。最後に見た空汰は傷だらけで眠っていた。



-16-




back
しおりを挟む


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -