思い出の代わり



気づいた頃にはたった一人で、無駄に広い部屋にポツンとソファーに座っていた。子供だった頃の自分には痛くなるほどの静寂、怖くなるほどの広さの空間。いつからこうだったかなんて覚えていない、気づいたら自分は一人だったのだ
その傍らにはまだ当時進化もしていなかった、今では頼れる仲間であるニョロがいた。だから自分はニョロの傍を離れることはなかった、他所からはきっと仲の良いことだと思われていただろう、もちろんニョロは自分の最初のポケモンで、長い間自分のそばにいてくれる友達だ
だけど、それは口実。ただ一人になることを恐れたのだ

飯を食べる時は広いテーブルに一人分だけ用意された料理、痛いほどの静寂に耐えれずテレビもラジオも点けた、広すぎる視界には置物やポスターを置いた
それでも飯が美味しいと思えないし、暖かいとも思えない

窓の外には手をつないで並んで歩く親子の姿、先に行こうとする娘を嗜めてまた帰路に戻って行くありふれた風景
その時ニョロには手はない、それでも傍にいてくれたから嬉しかったのを今でも覚えている。でも、もし離れて行ったら、引き止める手がない、引き止める権利が自分にあるのだろうか
不安ばかりが募ってやっぱり暖かくない
そんな日が長く続いて麻痺してしまったのだろうか、ひたすら走り回って寂しさを忘れようとしたからだろうか。ずっと感じていた寒さをいつしか感じなくなっていった
周りの親子を見ても、楽しそうで何よりだと思えるようになってきた。きっと自分も大人になったんだってませた考え方をしていた

そして、きっといつか、この心臓の痛みも自然と消えてくれるだろうと信じて、もう何年経った頃だろう




「ちょっとレッド!家主のあんたがどっか行ってどうすんのよ、何がどこにあるかなんてあんたしかわかんないのよ!」
「悪かったって、ちょっと外の空気吸いに行っただけだよ、ってああぁ!!何グリーンにキッチンの前に立たせてるんだよ!!」
「いつの間にあんたそんなとこにいるの!!?」

記憶の中の何倍も騒がしい部屋、成長して怖いとさえ思えてしまう空間も随分と狭く感じた
テレビもラジオもいらない、置物もなんだかここ数年で一気に増えたのはこの親友たちや後輩たちのおかげ
自分で作った料理も昔なんかよりずっと成長してるはず、それを美味しいと言って食べてくれるこの二人の親友の顔を見ていると今まで味がしなかった料理が少し美味しく感じた

「なぁ、二人とも」
「どうかしたかレッド」

少しうつむき気味な自分に合わせるように顔を覗き込ませてきたグリーンの顔は昔の可愛らしさも抜けまた随分とかっこ良くなられて、でも覗き込む瞳はまだあの頃の面影を残していた
不思議そうにこっちを見てくるブルーも昔以上に綺麗になったと思う、だけどその無邪気さは変わらない
そう、この二人も成長していながら変わっていないのだ
それは自分も同じであって

「寂しくなったからちょっと手をつないでくれね?」

互いの顔を見合わせるグリーンとブルー、当たり前だ数分前まで外にいた奴が帰ってきた瞬間こんなことぬかすのだから。しかも十代後半のいい年した男がだ、自分だったら爆笑してる
すると二人は不敵な笑みを浮かべてそれぞれが片手を取る、その手から伝わってくる体温にホッとしていると急に腕を引っ張られて気づけば二人の腕の中にいた

「どうしたのレッドったら甘えん坊ね」
「何を考えてるか知らんが、このうるさい女と俺がいて何をさみしがることがある」

体全体を包む二人の体温、きっと、幼いオレが望んでいたものとは少し違うかもしれないけど

「あったけぇ」

きっとこれも、オレが望んでいた繋がりの温もりなのかもしれない










お久しぶりの更新です!!一章の主人公だというのに今だに家族設定の欠片も見せない赤先輩は私の生きる糧です
家族の温もりに飢えている赤先輩が二人に強請って、家族じゃないけどこの二人がいればいいやってなる話です、わかりづらい


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