ゼルダの伝説
〜A bloody score〜




薄気味悪い鳥の濁った鳴き声が、鬱蒼とした森の奥深くに響いている。ここも、かつては聖域と称され、様々な動物が生きていたが、今はもうほとんどが魔物に支配されていた。
聞こえてくるはずの子供達の声も、どこかに消え去ってしまったのか、リンクの耳に届く事は無い。辺りの敵を軽々と避けながら、リンクはその最奥にある、とある場所へと向かっていた。
迷路のような道で突進してくる巨大な敵も、向かってくる狼のような敵も、リンクにはさほど手こずる相手ではなかった。動きの先を読んでいるかのように、一度刃を振れば、敵は簡単に絶命し倒れていく。リンクはその光景に、眉ひとつ動かす事はなかった。
手に馴染んでいる剣。幾度も経験し、魂に刻まれてしまった戦いの記録。そして、何度も言われた言葉。

「私は」

リンクは自分を縛る忌々しい言葉を再び口に出していた。そうしなければならないような、そうでなければならないような、灰色の感情が自分の中に渦巻いていて、リンクはそれを押し込める為に、何度も言葉を呟く。

「【勇者】として在り」

リンクは、もう崩れてしまった記憶の鎖を、知らず知らずのうちにまた寄せ集めながら、何度も何度も思い浮かべた。それと同時に、大切な人々の顔が、声が、むしろ生前よりはっきりしているのではないかと思う程に泡沫のように浮かんでは消える。

「【勇者】として死ぬ」

自分の完全なる死を考えるのは、難しくなかった。リンクの本当に望んでいたモノは、この世界にはいないのだから。そして何より、リンクの中でその理は他者とは違う意味合いを持っていたから。

「異端者の生きる意味は、そこにしか価値が無い」

どんなに足掻いても、それ以上の価値は無いのだと、リンクは自分から思っていた。それを否定してくれた存在は等しく無に帰っている。

「私は…」
「ほう、珍しいものがいるな」

リンクは、突然聞こえてきた誰かの声に、目を見開いた。しかし、動揺が見えたのはその一瞬で、振り返り向かい合う頃には、相手を見る冷たい目に戻っていた。

「久しぶりだな、勇者よ」
「ガノンドロフ、か」
「その目…貴様にそのような目ができるとはな」

ガノンドロフの記憶には、リンクの激しく燃え上がる激情を映す蒼天の瞳しかなかった。その言葉に、リンクはまた薄く笑い、ガノンドロフに答える。

「失礼、ガノンドロフ。私はリンクだが、貴方には敢えて、『リンク』という古の存在の方で挨拶させていただこう」
「古だと?」

決まりきった返しに、リンクはええ、と頷く。怪訝な顔をされるが、暫く思考して、ガノンドロフの中で一人の存在が思い出された。

「まさか、ハイラルを…消しかけたという【勇者】か」
「知っているとはね。さすがゲルドの人間だ」
「…成る程、あの脅威に対抗すべく、未だ地に縛られていたか。」

脅威とは、即ち楽譜。そしてそれの力は、ガノンドロフにも目障りでしかなかった。己の介入出来ぬ事態、絶対的な力、その為に生かされていた『リンク』。王家と賢者の、塗り潰された歴史。ガノンドロフは全てを理解し、目の前の『リンク』に敵意を持つことをやめた。

「利用してみるかい?君にも使役できないあの力を、この世界から消すために」
「分かっていて聞くか、『リンク』よ。しかし…惜しい。世界を憎むお前なら、我が仲間になる資格がある。過去に愛する者の為に、世界を犠牲にしようとしたお前なら」

ガノンドロフは口元を歪め、『リンク』を見つめた。その目には、【勇者】としてのリンクではない、いくつかの記述に示された狂気を持つ存在としてのリンクしか映っていないようだった。それを知ってか知らずか、リンクは一切迷う事無く横に首を振った。

「申し訳ないけれど、私はもうこの世界に興味が無いんだ。ただひとつ、あの楽譜を除いてはね」
「そうか…残念だ」

断られる事を、ガノンドロフは既に分かっていたのだろう、それ以上聞く事は無かった。リンクもそこで話題が終わったと見て、ガノンドロフにある事を頼む。

「君の指示なら聞くだろう。メグを呼んでくれないかな」
「ほう、それは何故だ?」
「ここの長女と、レギットは古い友人でね。彼女なら、楽譜の場所が分かるかも知れないんだ」

古い、の単位はおそらく『リンク』と同等であろう。ガノンドロフは彼女らと関わる事はあっても、そんな事は聞いた事が無かった。とにかく、ガノンドロフは脅威を消すために、『リンク』と共にその扉を開けた。


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