〜A bloody score〜 3 「リンク…?」 酷く荒れた空が、雨が降りだすまでもう間もない事を物語っている。村人は早々と家に入り、外に出ているのは少年ともう一人だけになっていた。 「リンク!お前、ナビィはっ…」 言いかけて、女性は止まった。確信は無いが、何処か違和感を感じる。それも、決して良いものではない。振り向いた少年に向かう足が自然と警戒し、必要以上に重心が置かれ、全身に緊張の糸が張り巡らされたように強ばる。 「君は、シーカー族か」 「…リンク、私を忘れたのか?」 「いや、忘れた訳じゃ無いんだ。正確には、知らないだけでね」 女は訳が分からず、しかし少年は嘘をついている訳でもとぼけている訳でも無いことだけが感じ取れた。何処から見てもリンクに違いない。しかし、リンクではない。 「名前は?」 「リンク。貴方は?」 「インパだ…リンク、なのか?本当に…」 あの、姫の信用した、という言葉は、喉の奥から出てこなかった。リンクは一人納得したように、何かを呟いて頷く。 「インパ、シーカー族という事は、王家に関わりがあるんじゃないかな」 リンクの問いは、問いかけではなかった。これに素直に答えて良いものかインパは躊躇したが、薄ら笑いを浮かべる相手に、偽りは意味を持たないだろうと考え、警戒しながらも「ああ」と返した。 「そうか…まあ、何だっていい。これから私は墓地へ向かうが、誰も近寄らせないでくれ」 「墓地へ…?」 インパはその言葉に眉を潜めた。あそこには確か…、と考えたが、しかしそこに向かうには必要なものがリンクには足りないはず。それに答えるように、リンクはその神殿の名ではなく、一つの墓を示した。そして、それが神殿以上に、インパには衝撃を与えるものだった。 「あの墓は…!貴様、何者だ!?」 「リンクさ。古に消し去られた、愚かな異端者の方の、ね。」 「古、だと…?」 インパは混乱する頭の中を整理し、目の前の人物に関する書物や記述の記憶を探った。一度だけ目にした記述が、ふと浮かび上がった気がしたが、曖昧なままそれは消える。 「私は急いでいるからもう行かなくてはならないが、約束は守ってほしい。…誰も近づけないでくれ」 「…分かった。リンク…武運を祈る」 「有難う、インパ。…さよなら、ラティスの子孫」 最後の方は、聞き取れないほど小さな声のため、インパは知ることは無かった。リンクの目に映った感情と共に、それは隠され、二度と表に出される事はない。 リンクは、僅かに降りだした雨を気にする事も無く墓地へ向かった。 ******* 浮遊する魂がいた。遊び場を駆け回る子供のように、それはくるくると回り姿を消す。不思議な事に、リンクが見えていないようだった。墓場に並べられた無機質な石碑の間を、それらに目もくれず通り抜け、リンクは隅にある一つの墓に向かった。そこには、記名の代わりに、奇妙な文が風化したままに記されている。 【虚しき光を有する者、深淵に眠る。時を迎える者、忌まわしき呪いを受けん】 一見すれば、それは間違いなく忠告であり、墓を暴く者への牽制であった。しかし、リンクはそれを見ても、表情が変わらない所か、一瞬の迷い無く墓を押し退けた。ガリガリと土を抉る音と共に、夜よりも深い暗闇に支配された空洞が現れ、静かにそれを見下ろすリンク。降り注ぐ雨が、その中に飲み込まれていく。雷鳴が轟いた時には、もう地上にリンクの姿は無かった。 ←*|#→ (5/10) ←戻る |