ゼルダの伝説
〜A bloody score〜


「そうか…君は、私とは違うようだ」

その声音に、明らかな喜色を滲ませて、『リンク』は言う。リンクが顔を上げると、『リンク』は空を仰ぐようにしながら、目を閉じていた。

「…私は、それを、生かしてしまったことを後悔している」

それ、とはおそらくガノンドロフ以上のものだろう。戻ってきた会話に、リンクは今度は真っ直ぐ向き合って一つひとつを聞く。

「今度こそ、あれは闇に葬らなければ…あるべき場所に、帰さなければならない。」
「君は、その為に生きているの?」
「私は、そうだね、その為に生かされているのかも知れない」

『リンク』の顔は、懐かしい思い出に浸るような、穏やかな顔をしていた。リンクはその中に隠された意味を知ることはなかった。暫く、静寂だけがその場に居座っていたが、決心したように、『リンク』は口を開く。

「リンク、君の体を貸してほしい。先程言ったように、私はここにはもういない。しかし、あれを消し去る為には、君が必要なんだ」
「…分からない、僕にはどうしたらいいのか。ねえ、教えてよ!それは一体何なんだよ!君は…誰、なの?」
「私はリンクだよ。ただし、そういう存在であったのは、もう過去になるけれど。そして、それは楽譜だ。王家に封印された、血塗られた楽譜。その存在を知るものは、もう片手で数えられる程になってしまった」
「…どうして、君は…それを悲しい顔で思い出すの?」
「大切な人を、奪われたからね」
「違う」

リンクは、『リンク』の答えに首を振った。『リンク』は、訳が分からずリンクを見る。答え方は間違っていない筈だと『リンク』は首を傾げて、自分を見る青い目を見つめ返した。

「違う…君はどうして、それを憎んでないのかなって」
「憎んで、ない?」

それに、今度は首を縦に振るリンク。これは子供とかの区別で割り切れる問いではなかった。『リンク』は思いもよらない問いに困惑し、自分の中にあるかもしれない答えを探した。しかし、答えはおろか、それに近い感情すらも見つけ出せず、『リンク』の中は戸惑いと新たな疑問で埋め尽くされていく。

「どうして、そう思ったのかな」
「えっ…分からない。でも、そうなんじゃないの?」

質問の答えは、リンクさえも持っていなかった。余計に深まる思考に、また新たに疑問が積み重なっていく。何故、自分はそうであるかの問いに、首を横に振ることができなかったのか。

「…ねえ、僕は僕じゃなくなっちゃうのかな…その、君になったら…」
「いいや、リンクはリンクでしかないよ。君の代わりは君しかなれない」
「それじゃあ、代わりじゃないよ」
「そうだね。だから君は君でいられる。そして私は、君にはなれない」

リンクは、あまりに婉曲的な言い回しに、ただ首を傾げるしかなかった。それを見て、『リンク』はまたうっすらと笑みを浮かべて、リンクに手を伸ばす。それは親のように優しい手つきでありながら、ハイラルのどんな水も負けてしまう程透き通っていて、吹き抜ける風のような温もりしか感じられない。まるで、寂しさのようだと、リンクは思った。純粋で、暖かで、時に苦しい感情。『リンク』自身に、リンクは何処か空白のような欠如を感じていた。

「君はこれから何処に行くの?」
「楽譜の元に」
「一人で?」
「きっとね。それが時の優しさであり、無情だから」
「そっか…でも、僕がいるよ!」

リンクは大きく頷くと、がっしりと勢いのままに『リンク』の腕を掴み、子供特有の笑顔で言う。それに圧されながら、『リンク』は自分に無い筈の温もりを感じて、驚きと嬉しさが混じりあった曖昧な表情をした。

「そうだね、私もここでは独りではないようだ」
「そうだよ!だから、絶対大丈夫だよ!」

リンクを、『リンク』は太陽のようだと思った。地上から見上げた先にある、暖かな光を注ぐ太陽。かつて、自分の焦がれたそれに、リンクは誰より近いと思えた。

「…有難う」
「ううん、どういたしまして!」
「それじゃあ、君を貸してもらうよ」

発光した『リンク』は、妖精球のような形になり、二、三度瞬いてから、リンクの中へと入っていった。一瞬、焼けるような熱さを感じ、リンクは呻き声を上げたが、気づけばそこにはもう何も無くなってしまっていた。

「リンク、か…」

自分の名前を呼ぶ自分。そこにいたのは、果たして他者だったろうか。しかしリンクは、それとは関係無しに、誰よりも『リンク』を信じている気がした。
もう、声は聞こえない。また一面の白に戻った世界に座り込み、リンクは目を閉じる。夢の中の筈が、不意に急な睡魔に襲われ、リンクは横たわった。
誰かを待ち続ける、誰かがきっと帰ってくる。
リンクは、静かに闇へと落ちていった。


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