〜A bloody score〜 ※サイト一周年記念にいただきました。時オカを土台としたオリジナルな世界に降り立つ、忘れられた『リンク』の物語。5のみグロ表現注意 1 神々の創りたもう偉大なる地、ハイラル。草花は生い茂り、芽吹く命は方々に谺する。異なる種族達が行き交い、安寧の日々を送る人々の姿で溢れていた。 しかし、それは過去の話である。 『助けテ、リンク…!』 町の一角、白い荘厳な姿を闇夜に浮かび上がらせながら、そこはあった。響く声は、虚しい程にか細く、悲哀に満ちている。リンク、それは託された子供の名。 『お願い、目ヲ覚ましテ…!』 その願いは、聞き入れられる事はない。何故なら、そこにリンクはいないのだから。ゆらり、と力無く明滅する妖精は、何度繰り返したか分からない願いを再び口にする。語りかけるその先には、無機質な刃のみが光っていた。 ******** 体を縛るもののない異様な感覚に、リンクは目を覚ました。辺りは一面真っ白で、自分がどこにいるのかも分からない程の無限の空間にリンクは横たわっていた。否、上下左右という常識的な束縛すらも、そこには存在していない。リンクは一瞬で理解した。これは夢だと。確証など無いくせに、何故かこればかりは間違いなく『真実』だと、自分の中の何かが理解していた。夢とは一時の幻、それは幼いリンクでも分かっている。しかしそれにしてはあまりにも、此処は現実に近いように、リンクには思えてならなかった。 「ああ、君がリンクか」 誰かの声が聞こえ、ぐるりと一周見渡すが、視界は遠近を狂わす白ばかり。夢ならば、何が起きても問題はない。そう考え、リンクは探すのをやめた。 「幼いな少年。そうだ、君はあの人に良く似ている」 答えを求めない言葉が、再び頭に響いてきたので、リンクは顔をしかめた。何の話なんだ、と言いかけたその瞬間に、ぐにゃりと足元が歪んだ。色の無かった筈のそこに、滲むように色が浮かぶ。それは影の様で、しかし伸びたそれは、リンクの目の前で形を変える。 そこにできたのは一人の少年、そして一番見慣れていて、一番見ることの無い存在―――リンクがいた。 「なっ…!?」 「そんなに驚かないでほしい。一時、姿を借りただけだからね」 諭すような口調も、うっすらと浮かべられた笑みも、リンク自身とは異なっているのに、形作られた姿も、未だ変わりきらない高めのテノール音も、写し取ったように酷似していて、リンクはその『リンク』をただ呆然と見ているしかなかった。 「君は誰なんだと言いたげだね」 「…君は僕じゃない」 「そうだよリンク、私は君じゃない。だが、私はおそらく、君に最も近い位置にいることになるだろう。」 リンクは相手の言う内容が理解出来ないでいた。しかし、それとは関係無いように、『リンク』は語り始める。 「すまないリンク、私達の残してしまった災厄が、目覚めてしまったようだ」 災厄、というキーワードにピクリと反応するリンク。最後に見た記憶が、忌まわしい男の姿が、焼き付けられたように鮮明に思い出され、リンクは拳を握り締めた。同時に、体の奥底から沸き上がる恐怖を感じた。 「それは、ガノンドロフ…?」 「いいや。それ以上のものだ」 「それ以上のもの?」 「そうだ。でも、私はここにはもういないから、君の力を借りるしかない」 「僕、の?」 「ああ…勇者リンク、君でなくてはいけないんだ」 勇者、そう、自分は勇者だ。リンクがそう思い、そして同時にその重荷に耐えかねるように俯いた。目の前で起きた凄惨な光景が、一枚一枚の絵のように頭の中を流れていく。悲しいとも苦しいとも、言えずに絶えていく命を目の前にして、自分は。 「勇者…」 「君は勇者だ。そうだろう?」 「っ違う!僕はコキリ族で…子供、で…」 リンクの声は、沈んでいく。事実なのだ。あの町を見たその瞬間、足がすくみ動けなくなったことも、何処かで聞こえた助けを求める声に、躊躇い無く手を伸ばすことができなかった事も。 「…辛かったろう。その歳で世界を背負うのは」 『リンク』の言葉は、内容とは逆に、その声に哀れみなどは含まれていなかった。むしろ、苦悩するリンクが、当然だという意味が含まれている気がして、リンクにはそれが何より、逃げ場を無くしたようで辛かった。 「リンク、君は逃げたいか?」 「逃げる…?」 そう言って、浮かんだのはゼルダ姫の顔。彼女は無事だろうか。 光が降りてきて、咄嗟にリンクは手を伸ばした。不似合いなほど鮮やかなそれは、手の中で本来の姿に変わる。失ってはならないもの―――時のオカリナ。 「あ…」 「そうか、王家の…彼女の遺産か」 それを見た『リンク』の顔は、心底安心しているようで、そして託された少年の行く末を、抗えぬものとして感じているようだった。 「…に、げたくない。僕は、絶対に逃げたくない…!」 間違いなく、体は震え、恐怖が浸透していた。それでも、リンクはこれだけは曲げたくないと、自分に言い聞かせるように呟く。その時、リンクは沢山の誰かに背中を押された気がした。 |#→ (1/10) ←戻る |