子供で力の弱いリンクに代わり、ゼロが重厚な扉を(潮風で相当傷んでいたため)精一杯丁寧に開いた。鍵は先の旅人が外したのか、かかっていなかった。
 屋敷の中は薄暗く、埃まみれで木の腐ったにおいがする。かなりの間放置されていたらしい。

「埃の上に足跡があるな」
『本当。まっすぐ奥に続いているわね』

 チャットの白とアリスの青の光が微妙な色彩で辺りを照らす中、一行は用心深く歩いていく。リンクが全員の中で一番感覚が鋭いので、彼を先頭にしている。ゼロは情けなさを感じないわけでもない。

「なんか、カサカサ聞こえない?」
『聞こえますね。なんでしょうか』

 ゼロはきょろきょろと辺りを見回した。ついでに、古臭い模様の絨毯などに目がいってしまう。
 チャットがふと気がつき、白い光を明滅させた。

『床が濡れてるわね。しかも家の中なのに下り坂があるわよ? 変な趣味』
「ゼロ、滑るから気をつけろ」

 注意を促すため後ろを向きかけたリンクに、よそ見をしていたゼロがそのまま一歩踏みこみ、ぶつかった。リンクの体はバランスを崩し下り坂の方へ傾く。
 アリスがはっとして叫んだ。

『ゼロさん!』

 結果、二人は声をあげる間もなく、もつれあって転げ落ちていった。いつ果てるとも知れない闇の底へ――。



「ごめん……オレが悪かったよ」
「……」
「本当に……ご、ごめんね……?」

 最後の声は消え入りそうだ。無論、先ほどのことをリンクに必死に謝るゼロの声だ。しかし返答はない。さすがのリンクも怒っているようだ。
 こうして声の調子で判断するしかないのは、妖精たちがいないので完璧な真っ暗闇だからである。
 あの坂道はかなり長く、傾斜は急で怪我ひとつなかったのは奇跡に近い幸運だった。先の旅人もここに落ちたのだろうか。
 諦めたゼロが黙って反省していると、スロープの上から光が近づいてきた。

『なんだ、生きてたの』
『チャットさん、何だかつまらなそうですよ……』

 妖精の光に照らされて、二人の様子が明らかになった。ゼロは申し訳なさそうに妖精たちに手を振り、リンクは背中を向けている。

『ああ、やっぱり喧嘩してたんだ』
「オレが悪いんだけどね……」

 苦笑しつつも、心なしかゼロは寂しげだ。
 喧嘩だろうが兎にも角にも全員が無事に揃ったので、さあ行こうと立ち上がった時、

「ちょ、ちょっと待った!」

 聞き慣れない声が響いた。
 慌ててゼロが振り向くと、リンクが見知らぬ人物の喉元に剣を突きつけていた。剣を抜く音すら聞こえない早技だ。

「盗み聞きするつもりじゃなかったって! そっちだって俺を尾けてきたんだろ? 刃物はしまってくれよ」

 リンクが何も言っていないのに対してよく喋る。闇の中で判別しづらいが、濃い色の髪に黒らしき目の色をした、珍しい容姿を持つ少年だった。長い髪を後ろでひとつにくくり、腰には細身の長剣を提げている。
 リンクは少年の言葉に自分の非を認め、剣を収めた。少年は安心して息を吐く。

「すまなかった」
「いいよ、気にしてないからさ。それよりこんなところで出会ったのも何かの縁だ、一緒に行こうぜ!」

 え、とリンク以外の三人は顔を見合わせた。かなり強引な提案をする少年だ。他人に厳しいリンクはどう答えるのだろうか。

「同行するのは別に構わない」
「じゃ決定。後ろの三人もよろしく!」

 リンクはあっさり許可し、少年からは爽やかな笑顔を贈られてしまった。つられて笑顔になるが、ゼロの心は不安でいっぱいだ。どうやら妖精たちもそれは同じようである。
 ゼロは少年には聞こえないような小さな声でリンクに話しかけた。

「リンク……本当にいいの?」
『そうよ。ゼロの時はすぐ断ったじゃない』
「……二対一なら負けないだろう?」

 リンクはわざと大きな声で平然と言い放った。彼は裏切られた場合の対処も考えていたようだ。言葉の意味するところを悟った少年の笑顔が若干固くなる。……が、すぐに復活した。調子がいいのか何なのか。

「話はもういいか? 普通はここら辺で自己紹介だよな。俺はレオン、トレジャーハンターをやってるんだ」
「オレはゼロ、それにこっちがリンクと……」
『彼女はチャットさん、私がアリスです』

 リンクとチャットは自己紹介にまったく興味がないため(つまり他人にもあまり興味を持たないのだ)、代わりにゼロとアリスが紹介した。

「それにしても、なんでキミはこんなところに?」

 ゼロが素朴な疑問をぶつけてみると、レオンはにやりとした。ついで、嬉しそうになる。

「よくぞ訊いてくれた! 俺の聞いた情報によると、どうやらここには不可思議なお宝が眠っているらしい。どんなものかは知らないけどなー」
「こんな所にお宝かあ……」
「では何故あんな暗闇でぼーっとしていたんだ?」

 今度はリンクの質問だ。くるりと彼に向き直り、レオンは相変わらずの笑顔で答える。人と話をするのがよほど好きで好きで仕方がないらしい。

「俺のまつあきが消えちゃったからさ」
「まつあき?」
『何よソレ』
 ゼロとチャットは何のことだかさっぱりわからないといった様子だが、リンクは「そうか」とひとつ頷くと、さっさと奥へ歩きだした。

「あ、待ってリンク!」
「おお、リンクには分かったみたいだな」
『アタシにはさっぱりよ』
『うーん、あまり面白い答えでもありませんが……』

 苦笑まじりのアリスの言葉に、この場にいる全員が同じことを思い浮かべた。

(分かったのか……)

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