太陽の子



※相互記念。神音様宅のキャラと共演、長編設定。微ネタバレあり


 二日目の天候はいつも通り不安定で、今にもぽつぽつ降り出しそうだ。しかし、そんな空模様には全く構わず、分厚い雲の下でのんびりとしている者もいる。

「やっぱりいつ来ても海はいいなあ」

 グレートベイの波打ち際でしみじみと呟いているのは、初雪のような色の銀髪と紅茶色の瞳をもつ青年、ゼロだ。不機嫌そうにうねる波にもお構い無しで、一心に海を見つめている。

『本当に海がお好きなんですね』

 彼の傍らには青く光る妖精、アリスがふわふわ浮かんでいる。彼女がもし人間だったなら、まるで彼の母親のような顔で微笑んでいたに違いない。
 そんな二人の間には、お花畑にいるかのようなほのぼのした雰囲気が形を成し始めていたが、ナイフのように鋭く冷静な声によって壊されてしまった。

「ゼロ、アリス。ちょっといいか」

 海に対する感傷など微塵も感じさせない声に特に怒りもせず、ゼロは振り返った。
 後ろには、新緑色の簡素なつくりの民族衣装と、おそろいの帽子を身につけた少年が立っていた。髪の色は、太陽の光をいっぱいに浴びたたんぽぽのような金色。軽くゼロを見上げている瞳は、冬の空のように透明で冷たい青色だった。
 今、ゼロたちが共に行動している仲間のリンクだ。むしろ彼の方がリーダーである。

「気になることがあった」

 それだけを言って、彼はきびすを返してしまう。頷き、ゼロも後へ続いた。
 これでも、出会った時よりは随分と彼も素直になったと思う。リンクはどこから見ても十にも届かない位の子供なのに、言動も行動も大人っぽく、初対面時ゼロは怪しい奴と思われ、かなり警戒されたのだ。
 それが、ここまで会話らしい会話ができるようになり、内心ゼロは喜んでいた。
 そのようなことを考えつつリンクについて砂浜を歩いていくと、数分もしないうちに目的地が見えてきた。

『遅いわよ! 一体いつまで待たせる気なの』
「悪かった」

 威勢のいい声を響かせたのは、ゼロとの出会い以前からリンクと旅をしていた白く光る妖精、チャットだ。同じ妖精でも常に丁寧な口調のアリスとは違い、気が強く言葉がきつい。しかし何故かリンクとは馬が合うようだ。

『あのニンゲンは結構奥まで行ったみたいね。音がしなくなったわ』
「そうか……」

 腕を組んで考えこんだリンクの後ろで、ゼロは目的地である目の前の建物を見ていた。
 いやに大きく、装飾過剰な扉が威圧的にそびえ立っている。金持ちの別荘かとも思ったが、扉に比べて建物自体は異様に低い。というより平屋である。天気と相まってより一層不気味に、しかし貧相に見えた。

「ねえ、リンク……もしかしてここに入るの?」
「そうだな」
『ここのご主人の許可などが必要では?』

 アリスの言葉に、リンクは黙って顎をしゃくった。大きな大きな扉には、色褪せた貧乏くさい張り紙があった。

『売り家』

 しかし連絡先が書いていない……。これでどうやって売る気なのだろうか。または全く売る気がないのか。
 どんな幽霊屋敷かと身構えていたのに気が抜けてしまい、ゼロは話題を変えた。

「そういえば、気になることって?」
『変なニンゲンがこの中に入っていったの。見たこともない服のね』
「さらに帯刀していた。気にならないか?」

 すっとリンクに視線を向けられると、ゼロは頷いた。ゼロよりもずっと鋭いリンクが「気になる」と言ったのだ、何かあるに違いない。それに、珍しくリンクの方から提案があったのだ。働きっぱなしの彼のいい気分転換になる。
 それでもアリスは不安なのか、重ねて質問した。

『危険そうな方ではありませんでしたか?』
「遠目に見ても細身だった。装備からしてもおそらく普通の旅人だろう」
「大丈夫だよアリス。オレはともかくリンクがいるからさ」
『それって、ずいぶんな他力本願じゃない?』
「あ、ばれた?」

 ゼロとチャットの軽いやりとりで、アリスもいくらかほっとしたようだ。彼女は他の三人にない慎重さを持っているので(リンクは一度決めると意外と頑固である)、一行のいいブレーキになってくれる。ブレーキが効かないこともあるが……。
 ゼロはそんなアリスに向かって微笑み、よし、と言って拳を振り上げる。

「それじゃあ怪しい屋敷探検に出発だ!」
「いや、お前が仕切るなよ」

 いかにも気が無さそうに、ぼそっとリンクが呟いた。


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