*
「さっきからさ、カサカサうるさいだろ? これの正体知ってるか?」
屋敷の(おそらく)地下一階を探検しながらも、レオンはぺらぺらとよく喋った。もっぱら相手をするのはゼロとチャットだ。
屋敷に侵入した当初から気になっていたことなので、ゼロは興味深く聞き返した。
「知らないなあ。この音、前から気になってたんだ。何の音?」
「それはだなあ……よっと!」
レオンは突然力任せに屋敷の壁を蹴った。そこら中傷んでいるのでその行為は危険だ、と声をかける暇もなく、鈍く湿った音とともにどこからともなく大量の埃が降ってくる。要領よくそれを避けて、レオンは腰に帯びた片刃の剣(彼は『刀』と呼んでいた)を抜いた。
「こいつが正体さ!」
妖精たちの光に照らされて、床の一点がキラキラと輝いた。黄金色の――巨大な蜘蛛?
レオンは体重を感じさせない軽やかな足さばきで蜘蛛に忍び寄り、正確に頭部だけを刺し貫いた。
「一丁あがり」
曲芸師のように刀をくるくる回し鞘に収める。その動作は妙に格好良く決まっていた。
そして、彼は身を屈め蜘蛛の身体から何かを取り出す。
「何それ?」
「黄金のスタルチュラを倒した『しるし』さ。高く売れるんだ」
レオンはやはり黄金色に輝く図案化されたドクロのような形をした『しるし』を掲げた。ゼロもスタルチュラという装甲の堅い蜘蛛の魔物と戦ったことがあるが、その黄金色の奴もいるらしい。
思わず感動したゼロが感想を述べようとした時、
「二人とも、静かにしてくれ」
リンクが有無を言わせぬ口調で制した。先ほどのこともあるのでゼロは口をつぐんだ。レオンが声を潜めて尋ねる。
「どうしたのか?」
『いいから黙ってアレ見なさい』
リンクと妖精たちが部屋に無造作に配置されている本棚の陰に隠れていたので、二人もそれに従い、そこからこっそり顔を出してみた。
薄明かりに見えるのは、闇の中を徘徊する骸骨の魔物の姿だった。目のある部分には暗い光が宿り、カタカタ骨と骨がぶつかり合う。大きさは人間の子供程度、しかし頭蓋骨がほそ長いので元は別の生き物だろう。
ゼロはその魔物に見覚えがあった。
「スタルベビーだ。谷の魔物が何故海に?」
「きっとお宝を守ってるんだ。違いないね」
レオンは確信したようだが、リンクはどう対処したものか考えあぐねている。スタルチュラがはびこるのは納得できるが、スタルベビーのように知性の高い魔物がいるのはおかしいのである。
そこで、これまで口数の少なかった妖精アリスが提案した。
『リンクさん、谷ではアレを使って彼らと会話できましたよね』
「そうだよ! スタルベビーたちの隊長になったじゃん、リンク」
ゼロも賛同した。リンクは納得しかけたが、すぐに表情を消した。
「『隊長のボウシ』か……」
あまり多くは語らないが、苦い思い出らしい。
だがレオンの期待の目を見て意を決し、スタルベビーたちの隊長――スタルキータの成仏の際に譲り受けた『隊長のボウシ』をかぶり、徘徊(もしくは巡回)するスタルベビーに近づく。
スタルベビーが狭そうな視界にリンクの姿をとらえ、びしっと敬礼した。
『あ、隊長どの、お久しぶりです。ご安心ください、例のものはきちんと守っているであります!』
「……そうか、ご苦労。その例のものの様子を見に行きたい。四人ほど同行するが」
『構いません。では私についてきてください!』
リンクがちらりと本棚を見た。黒髪で闇に紛れやすいため顔を出していたレオンが他の三人に合図し、全員がぞろぞろと出てくる。
「なかなか堂に入ってたな、演技」
「そうかな」
相変わらずの無表情でレオンに返事をし、リンクは一行の先頭に立った。