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SUMMER STORY




空は高く青く、太陽はジリジリと三蔵一行に降り注ぐ
潮の香りに誘われて、海に向かいジープを走らせる

「もうすぐ着きますよ〜。浮き輪の準備出来ましたか?」

八戒はバックミラー越しに後部座席の悟浄と悟空に笑いかけた

「〜〜〜だぁぁああ!!苦しいー!!」
「これ今やる事か?!」

悟浄と悟空は顔を真っ赤にして、大きめの浮き輪を2つ膨らましていた
足元には、既に膨らましたビーチボールと水中メガネが転がっている

「やっぱり海と言ったらスイカもいりますよね?」
「………あぁ。」
「あ、花火もいいですよねぇ」
「……………あぁ。」

つか、着いたら膨らますヤツくらいあンだろ、と文句を言う二人を無視して八戒は三蔵と話をする

ふと、浮き輪を膨らます手を止め悟空は空を見上げ、青空の向こう、水平線に広がる入道雲を見つめた

暑さで火照った瞳を閉じれば、去年の事を想い出す


ーーーーーーーーーーーーーーー



「悟浄ー!早く来いよっ〜!!」

バシャバシャと海に入っていく悟空
海水が腰まで来た辺りで振り返り、まだ来ない悟浄に大きく手を振った

髪を後ろで一つに束ねた悟浄は、長い足を大股に動かして悟空を追いかける

一方、八戒と三蔵は砂浜に刺したパラソルの下で
悟空と悟浄を保護者の様に見つめていた

「悟空ー!準備運動しましたかー?」

「おー!バッチリだぜ!」

「オイ、八戒。ビールあるか?」
「ありますよ。はい、どうぞ」

八戒はクーラーボックスの中から缶ビールを出すと三蔵に手渡した

三蔵は日焼けが嫌なのか長袖のパーカーにサングラス姿
八戒も海パン姿だが、しっかりパラソルの中に収まっていた



数十分後、悟空と悟浄が戻ってきた
悟空は戻ってくるなり腹減ったー!といつもの様に騒ぐ
三蔵はカードだけを悟空に渡して、その場から動く気配が全くない

「八戒行こうぜ!」
「えぇ、いいですよ。二人は欲しいものありますか?」




パラソルの下で休む三蔵と悟浄を置いて、八戒と悟空は海の家に向かった
店に入ろうとすると、耳に入って来たのはナンパをしている男達の声と、それを嫌がる女性の声

悟空は気になり店横を見に行くと、そこには男達が女性を無理矢理手を引っ張り連れて行こうとする姿あった

「兄ちゃん達、その子嫌がってんのに止めろよ!」
「そうですよ。嫌がるのを無理矢理って言うのは、悟浄より酷いナンパですね。」

悟空と八戒が女性と男達の間に割り込んだ
八戒が女に大丈夫かと心配すれば、彼女は首を縦に振った

男達は突然乱入して来た悟空と八戒に文句を言うと、突然殴りかかってくる

悟空は持ち前の素早さで男を避けると、男はそのまま砂浜に顔面ダイブする
もう一人の男が八戒に向かうが、殴りかかる男の腕をかわし、後ろに回り込むと首に手刀を食らわせる
よろけた男の腕を締め上げた

「イテテテテ!!」
「クッソ、ふざけんなよ!」

男達は、尻尾を巻いて逃げていった

『助けて頂いてありがとうございます!』

彼女が二人に頭を下げる
悟空は気にすんなよ、と眩しい笑顔で笑う

「お一人ですか?」
『友達とはぐれちゃって、探してる所なんです』
「よかったら、一緒に探しますよ?ね、悟空」
「おう!俺、悟空ってンだ、こっちが八戒。よろしくな!」
『私はななし1です。よろしくね!』


ななし1は悟空より2つ年上だった

お昼に食べるご飯をどれにしようか悩んでいたら、友達とはぐれたらしい
八戒に悟空みたいですねと笑われ、恥ずかしそうに笑うななし1と罰が悪そうな悟空

そんなななし1の笑顔を見て、悟空はななし1を可愛い、と思うのだった


広いビーチから友達一人を見つけ出すには三人では難しく、一旦ななし1を連れて三蔵達の元へと戻る事にした

戻る途中、前方から手を振ってななし1と大声で呼びながら走ってくる女性
ななし1も、居た!とその女性の元へと駆け寄った


「どこ行ってたの?!探したんだよ!」
『ごめーん!つい、食べものに気を取られて…』
「バカ。子供かよっ!」
『バカって言わないでよ〜、会えたからよかったじゃん!』

ななし1達は、ようやく会えた事にはしゃぐ様に喜んだ

「お友達に会えて良かったですね。僕たちも嬉しいです」
『あ、八戒達も探してくれたの!』
「ななし1がお騒がせしました!」

友達が八戒と悟空の方を向くと、ななし1の頭に手を置き一緒にお辞儀をした

『無事に会えたし、安心したらお腹空いたー!』

ぎゅるるる〜とななし1のお腹の虫が鳴く
それにつられる様に、悟空のお腹の虫も一緒に鳴いた

それが可笑しくて、四人で笑い合う
ななし1を助けてくれたお礼に、と彼女は八戒と悟空をお昼に誘った
三蔵達とも合流をし、海の家で昼食をとる事にした

「すみません、お礼のつもりがご馳走になってしまって…」
「あはは、そんなの気にしないで下さい、」

結局、三仏神のカードで支払ってもらい、再度頭を下げる二人

昼食の間、野郎と海も寂しい…と悟浄に誘われ、ななし1達は一緒に海を満喫する事に決めたのだった

ビーチバレーにスイカ割り、 どれも楽しくあっという間に時間は過ぎる

ビーチバレーでは、悟空の身体能力の高さに驚き、悟空とななし1のチームは圧勝
得点が入る度に二人はハイタッチをして喜んだ

スイカ割りでは、悟浄は三蔵目掛け棒を振り下ろすものだから、三蔵の銃声が響いた
弾はスイカに当たり、無残にも悟浄へと果肉と汁が飛び散った



暑い浜で1日中笑い合った
こんなに楽しいのは、きっとななし1がいるからだ、と悟空ら思う

そんなななし1の右手の薬指には、キラリと指輪が光っていた



ーーーーーーーーーーーーーーー



夏の夜風に吹かながら砂浜を歩く悟空とななし1
特に話す事もなく、波の音と虫の音だけが響いていた

ふと空を見上げれば、満天の星空が見える

「ななし1見ろよ、すげぇ綺麗だぜ!」
『わあー、本当だ〜!』

二人はそのまま砂浜に腰を下ろし、星を眺める
ななし1は夜空に指を指し、悟空に星座を教えていく
悟空はななし1の話を一生懸命に聞くも、どれも同じに見えてしまい眉間にしわを寄せた
そんな悟空の姿にクスクスと笑うななし1

ほら、よく見なよ?とななし1は悟空との距離を縮めた
ななし1の体が悟空の体に密着し、微かに香る甘い匂いに悟空は息を飲む


『………悟空?』

ななし1に名前を呼ばれ、気がついた時にはななし1にキスをしていた

「……あ、ごめんっ、俺、」

顔を真っ赤にして慌てる悟空
今度はななし1が悟空にそっとキスを返した
これでおあいこね、と笑うななし1に悟空は目を丸くした


「おーい、猿!ななし1ちゃーん!花火やるぞ、」

背後から聞こえた悟浄の声にななし1は立ち上がり、ズボンに着いた砂を払って悟浄の方へと向かおうとするが、悟空に手を掴まれて振り返る

『悟空?どうしたの?』
「あのさ…俺、……」

悟空も立ち上がり、真っ直ぐななし1を見つめる
このまま手を引いてななし1を抱きしめたい衝動に駆られた悟空


『ほら、花火始まってるよ!行こう?』
「お、おう…」

悟空の緩んだ手からスルリと解けるななし1の手
ななし1の背中を見つめながら悟空は掴んでいた自分の手を握りしめる


――俺だけに笑ってほしい。


そう願った瞬間、満天の星空に一筋の流れ星が流れていた

気付かないフリをする。これは叶わない恋だと言う事を

悟空はななし1への言葉に出来ない想いを、そっと自分の胸閉まって鍵をかけた



ーーーーーーーーーーーーーー



「手止まってンぞ、悟空」
「あ、悪ぃ」

悟浄の言葉に悟空は瞳を開けた
悟浄を見れば、先程の浮き輪がとても大きく膨らんでいた

急いで浮き輪を膨らます悟空
頬を膨らまし、手に持つ浮き輪にあの時の気持ちをぶつける様に息を吐く
全部膨らまし切った所で、また入道雲を見つめた


ーーいつか、会えたらいいな。


悟空の期待と想いを乗せ、ジープは海へと向かうのだった


END

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