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バディはおっちょこちょい


午後2時。

約束の時間に間に合う様に、身形をチェックして荷物の確認をした。今日はこれから、クライアントに営業をしに行くのだ。
資料に抜けが無いか確認をして、重たい鞄を持ち上げた。

「悟空君〜??クライアントに会いに行くよー、準備出来たー??」

「おぅ!……あ、はい!!大丈夫…デス!!」
「クスクス、本当かなぁ?忘れ物ない??」

わたわたと背広を着ながら鞄を手にしたのは、新入社員の悟空君。私の後輩にあたる彼は、一緒に商社の営業として働いている。
かなり体育会系な悟空は笑顔の似合う可愛らしい男の子だ。おっちょこちょいで、良くカラ回ったり失敗をするのだけれど、持ち前の明るさとひた向きに頑張る姿は誰からも可愛がられている。年齢が上の上司や事務のお局サマからは息子の様に可愛がられ、若手の仲間達からは弟の様に可愛がられる、そんな存在。

「悟空君、新商品の資料持った??」

「ななし1…センパイっ、そんな心配しなくても大丈夫っ…デス!!ほらコレっ!!」

―――バサァ

「ぎゃーーっ!!!」

「相変わらずだなぁ、悟空君、落ち着いて??」

資料を勢い良く取り出したあまり、まるで紙吹雪の様に社内に舞った資料。きょとんとした悟空君は一瞬上を向いて何が起きたかフリーズしていたけれど、それが自分の資料だと認識した瞬間、大きな口を開けて叫んでいる。

「うぅ…またやっちまった…、」

「大丈夫、ちゃんとこーゆーハプニングがあると思って、時間に余裕持たせてあるよ。」

床に膝を着いて資料をかき集める悟空君の手伝いを一緒にすれば、彼は涙目で申し訳なさそうな顔をしている。
資料を全部拾い上げると、説明する順番に直していく。まるで捨てられた子犬の様に耳が垂れ下がっている様な悟空君にクスリと笑えば、彼は恥ずかしそうに口をぐにゃぐにゃに歪めていた。

「……はい、これでオッケーっ、…悟空君、膝。」
「ええぇ??…あ、サンキュー!!」
「どういたしまして。」

立ち上がった悟空君の膝は埃が付いていて、私はそれをパンパンと払ってやる。全く気付いていなかった悟空君はにかっとした笑顔でお礼を言ってくれるから、そんな笑顔に私も笑みが溢れる。

「さー、今度こそクライアントに会いに行きますよー。」
「おうっ!!俺、頑張る!!…ます、」

君なりに分かりやすく、一生懸命作った資料だもんね。
後輩の成長を間近で見て感じれる営業だからこそ、私もいつもより気合いが入る。
会社を出て、社用車に乗り込んだ。

いざ、クライアントの元へ。



――――――――――――



「はーい、悟空君、お疲れ様。」

無事に営業が終わって車の中。本来なら運転は後輩の役目だけれど、おっちょこちょいの悟空君の運転が怖くていつも私が運転している。
助手席に座る悟空君をチラッと見れば、鞄を抱きしめる様に少し項垂れていた。

「……どうしたの、そんなに落ち込んで。」

「…上手く説明出来なくてさ…一生懸命練習したのに、カッコ悪りぃ…、」

「そう??社長は悟空君の元気の良さは気に入ってたよ??」

一応先輩として、『元気の良さは』に留めておいてやる。
確かにスッゴい噛んでたし、説明している事と見せている資料が違ったり、本当に些細なミスは多かったと思うけれど、そこまで気にする様な事でも無かったと思う。
そりゃ思い返せば私が新人の時も同じ様なミスはあったけど、それは先輩がフォローしてくれたから助けられ、今があるのだ。今回の悟空君のプレゼンはチグハグでも相手は聞き入っていたし、最後のまとめ…今回は私がまとめたけど、それさえ上手く出来れば問題ないと思う。

「良かったよ??社長に『君達はでこぼこコンビで、プレゼンを見ててとても面白い』…って、言われてたじゃない。」

「うん…そーなんだけど、…そーじゃなくて、」

「??」

鞄に顔を半分埋めている悟空君が、珍しく言いたい事を言えないでいる。大抵、素直過ぎて思った事をすぐに口に出してしまうのに…失礼だけど、どもる事もあるのかと思ってしまった。


「…ななし1センパイに…もっと、カッコいいって思われたいのに…」

「……っ?!」

赤信号で止まろうとしたのだけど、その言葉にブレーキを踏む加減を間違えた。二人とも一瞬前のめりになって、シートベルトに体が食い込んだ。隣からは、ぐぇっ、とアヒルの様な声が聞こえた…申し訳ない。

「……ななし1センパイ…どした!?!」
「…いや、ちょっと動悸が…」
「うえぇ?!大丈夫かよ!?……っあ、大丈夫デス、か…、」

本当に敬語に慣れてないんだなあ。
一生懸命言った言葉を訂正して、敬語を頑張る悟空君。それが可愛らしくて、失礼だとは思うけど笑いが込み上げてしまう。

「あははっ、悟空君はそのままで良いんだよ。失敗してもいい。少しずつ慣れてくれば出来るから、大丈夫よ。…少なくとも、一生懸命な悟空君の姿…私はカッコいいと思うよ??」

「……うん…なぁ、ななし1、…センパイ…。」

「何でしょう、悟空君。」

「…その…、何て言うかさ、」

「???」

さっきまでめげていたと思えば、急にもじもじし始めた悟空君。運転中だからあまり凝視はできないけれど、横目でチラリと見れば、私を見つめる悟空君と目が合った。女子だったら完璧に可愛い上目遣いだぞ、分かってんのか。

「名前……悟空、って、呼び捨てして欲しいんだ。」

「……、」
「ななし1センパイと…もっと仲良くなりたいから、俺の事、呼び捨てして欲しいんだ。」

照れくさそうに言う悟空君を見れば、私の脈拍がどんどん早くなっていくのが分かる。内心凄く嬉しくて、顔がニヤケそうだ。
こんな可愛い子が彼氏になったりしたら、本当に癒されそうだもん。結構女子から人気な悟空君と(そりゃイケメンだし、こんな性格だしモテるわな)、一緒にバディを組んでいるから会社では常に一緒だ。これはバディの特権とでも言うのか…。でも取り乱すなんて運転中に出来ないから、私だって頑張って大人な態度をとる。

「ふーん……分かった。じゃあさ、」
「???」
「その"センパイ"って言うの、やめよ。私も呼び捨てが良いな。」

「……ななし1…。、なんか、嬉しいな…!!」

「……………、そーゆーの、反則だと思う。」
「反則??何でだ??」
「〜っ、この鈍感っ!!」

自分からフラグ立てておいてソレかよ!?
内心舞い上がってた自分が恥ずかしいのと、もしかして天然タラシかも知れない悟空君にちょっと苛ついて、アクセルを一気に踏んでやった。当然、隣の悟空君は急に荒くなった運転にびっくりしてる。

「うわわっ!!?ななし1、怖い!!」
「もうっ、悟空君のバカっ!!」

悟空君が私の左腕を掴みながら怖がるものだから、それにまたキュンとしてしまう自分が腹立たしい。
この小さく芽生えた恋は育つのだろうか。


end

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